2017年03月07日

もう痛くない

その寝たきりの方は病状故なのか認知の問題故なのか、常に舌ったらずだった。

けれども時々凄く可愛い笑顔を振りまいていた。

齢3桁にも及ぶその大先輩は、気が強くて気に入らないことをすると全力で抵抗して来ていた。

脱水と低たんぱくを繰り返していて何度か病院とホームを行き来した。

そしてある日大病院から退院する日に迎えに行くと、あまり好きでないはずの私の手をがっちりと握ってはしがみつき離さなかった。

よほどホームに帰りたいのだろうと思った。

しかしホームについてみると愕然とすることがあった。

痛々しい抑制の跡。

麻痺ゆえに曲がらないはずの腕がピーンと伸ばされていて、皮がむけていてパンパンに腫れていた。

病院ではおそらく手をしばってまで点滴をする必要がったのだろう。

でも、その日の帰り、一人になってから顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら帰った。

何で退院のときに詫びてくれなかったのだろう。何故教えてくれなかったのだろう。そして怒りを出来る限り抑えて問いかけても何故本当のことを言ってくれなかったのだろう。

Sちゃんはどんなに痛かったか。

それからまた月日が流れ、再びSちゃんは入院しなければならなくなった。

是非が非でもと違う病院へ連れて行った。

病状が病状なだけにもう二度とホームへ帰って来れるはずもなく、そして今日お亡くなりになったのだと言うことを聴いた。

同業者に言って、もしも物凄くドライな返答が返って来たらと思うと怖くて介護の人に伝えた。

無反応だった。

「何時頃?いつ?」と訊かれたが、それも少し違った。

屋上へ行って気持ちを落ち着けて、それから仕事へ戻った。

さあ、ここで何をやろうとするのか。

喪失の歴史を垣間見ながら。
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今日も最後まで読んで下さってありがとうございました。あなたにとって良い一日でありますように。

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posted by かおる at 06:00| Comment(0) | 看護 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする