2017年04月18日

こうなるのか

介護職員のkyoneちゃんの苗字は非常に硬い音をしている。小説家の苗字みたい。

小柄で細いのだけど職業柄筋肉質。

私が初めてこの職場に派遣で来た当初、まあ、凄く可愛い顔をしている素敵な子だけど・・・無表情な子だな、きつい子だなあと思っていた。

真面目で発言が非常に厳しいからかな。

多分互いにむっとすることもあった。要するに私も傍から見ると負けず劣らず毒舌に思われるからだろう。

しかし、勤めて1〜2か月経ったあたりから「あの。ご相談があるんですけど。」としょっちゅう話しかけて来るようになった。相変わらず単調な声音だったけれど、その相談内容というのが毎回興味津々なことばかり。

「○○さんの背中の褥瘡についてなんですけど、こういったものを作りたいと思うんですけどどうでしょうか?」とか、「介護ではこの時間に起こして、この人の場合はこの時間に排泄に入っているんですけど、この時間帯にもう一回増やした方が良いでしょうか?」とか「●●さんの臀部がこんなふうになっているんですが・・」とか。

それまでの看護業務を覚えるのも必死だったのだけど、覚えれば覚えるほど、ここは間違っている、ここはこうして行かなければならない・・・と課題が山ほど出て来ていた時期で、実際今もそれは続いているのだが、その傍らでkyoneちゃんはその周辺の介護職員数人の情報提供が無かったら、もっと状況が分からなかったことだろう。

しかも、訊いてくれることが、まさしくこれまでの経験や知識、またある時は新しいアイディアを生かさせてくれる内容ばかりだった。

そして月日が流れた。

今も私は私でkyoneちゃんはkyoneちゃんだが互いに突っ込み合って笑うことが多くなった。「はじめは優しかったし礼儀正しかったのに、なんでそういうひどいこと言うようになったの。」と。

そして後から分かったことだけど、うちの娘たちくらいかそれよりもう少し上なのかな?と思っていたのだが、30代後半で既に子育て中だったということ。

なんだよ、言うこときいて損したよ。と言うのも、私は若い女の子でちょっと毒舌な子を見るとすぐに娘たちを投影してしまって、気が付いたら笑顔にしようとしてしまうし期待に応ようとしてしまうから。

しかし結局年齢が分かった今でも挨拶しているときの表情一つで「何、何、どうした?何が不満なの?」となってしまう。

時にIさんとキャッチボールをやるようになってから発覚したことだったのだけど、皆口々にソフトボールをやっていたとか野球をやっていたとか。kyoneちゃんもそのうちの一人だった。

細っこいのに。。。そうは見えないね。

「尾崎さんこそ。」

いや、私はそういう部活はやったことないですよ。遊びでやっていただけ。

「その割にはなかなかだけど。」

そんな軽口を叩いている折、kyoneちゃんが昼休みに外に出て来た。体調不良のK姉さんのグローブを借りて。

おお、来たか。

午前中に入浴場でIさんに会った際「この間はどうも。」なんて話をしていて「あの翌日にバットを買いましたよ。でも、重いやつを売ってくれなかった。だから重りでも買うか。」と言うといつも静かなIさんが珍しく爆笑していて。

「尾崎さん、あたしは通販でこういうバッティングの器械を買おうかと思って昨日必死で探していました。」と言う。

すると、常日頃、何事にも無関心という感じのkyoneちゃんがカーテンの向こうから入浴介助用のエプロンをつけたまま出て来て「二人で何話してるんですか?!」と言う。お、居たのか。今日はお風呂係だったのか。

その会話を聴いていた後、私が看護業務に戻った後、Iさんから詳細を聴いて「あたしも昼休み、キャッチボール行く。」ということでやって来てくれたらしい。

もっとも職種が違うので昼休みの重なり具合が少ししかないのだが。

その少しの時間で「やばい。楽しい。」と無表情でつぶやきつつキャッチボールをしていたkyoneちゃん。

それから忙しく仕事をしていての夕方頃、後ろから「尾崎さん!」と声がする。

あ、kyoneちゃん。お風呂、全員入れ終わったんだ。

「あたしもグローブ持って来ますよ。」

忙しくて、ハハハと笑うだけで振り返って表情を見る暇もなかったのだけど。

意外だなあ、楽しいなあと思った。

Iさんは「明日居ます?それとも休み?」と訊いて来る。「あたし、今週だけ、明後日が休みで明日が出なんですよ。だから、明日できますかね?(キャッチボール)」。

ああ・・・明日は恐怖の往診日第三回目なのだ。昼休みが取れそうにない。

なんて悲しいんだ。

でも良いだろう。また今度出来る日まで体力を温存して仕事をきちんと終わらせるようにしておこう。

人というのは不思議だ。

出会い立ての頃、一番不愛想だった者同志がキャッチボールなんてしながら真面目に深い話をするようになったり、互いに毒をはいて突っ込みをいれるようになっている。

何にも知らないしあえて訊かないのに気が付いたらぽつりぽつりと自分の話をしたり、自然に互いを知るようになっている。

考えてみればいつもそうか。

出会い立ての頃、ぐいぐいずかずか色々訊いて来たり、訊いても居ないことを説明して来たり、ペラペラ喋りかけて来る人よりも、そして、何もしなくともそういう人たちとの縁が深くなる。

そういう人たちの方が相手や周りをよく観ているせいかも知れない。言葉よりも行動を見て何かを互いに感じ取っているらしい。

見る人が見ないと分からないKちゃんの「やばい。楽しい。」というかすかにウキウキとした顔やIさんの機嫌の良い静かな笑いや。

相反してパン!と音がする強い球。

これは確かにやばいわ。

仕事のメリハリにもつながっている。

取り損ねた球をすぐに取りに走るような、あきらめない心に通じている。
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今日も最後まで読んで下さってありがとうございました。あなたにとって良い一日でありますように。

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posted by かおる at 06:00| Comment(0) | 恋愛・友情・仲間とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする