2017年06月12日

いつも”Do not worry”と言われる

昨年末の頃、私はまだ派遣ナースで、喫煙所も今のように屋上ではなかった。

裏口の外にベンチが置いてあるだけだけど、それなりに人が集っていた。

そういう習慣なのかどうかは知らないけれど、どんなに人が多くてもナースというだけで席を譲られた。

その頃もそれなりにIちゃんやHさんと言葉を交わすことはあったけれど、まだまだ余所者だった私。

それだけではなくて、Hさんはまったくもって目を合わせて話してくれないなあと思っていた。

さらにある日、私の隣に座っていた人がIちゃんとHさんに席を譲ると二人が私の隣に座るわけだが、私の真横に座るように仕向けられたHさんが「なんだよ!」と他の二人に怒っていた。

あたかも私の隣に座るのが嫌だ!と言わんばかりに。

あらま。余所者というだけでなくHさんには嫌われているわけかーと思った。

長く勤めていらしてボス的で、これはよくあることだけど私は第一印象でこの手のクールな人に嫌われる。ほんとによくあることなので慣れているのだけど、大抵「チャラチャラしている。」とか「女女しているわ。気取ってるわ。」というふうに見えるらしい。

そういうのにも慣れているので、「私はあなたみたいな人、大好きなんだけどねー。仕事の仕方も性格も、その感覚も。まあ、仕方ないわ。」と内心思いつつ、おかまいなしにしばらく勤めていた。

そういう人には迷惑だろうから仕事上だけでもコミュニケーション取ってくれるのをありがたく思い、他は一切話しかけない。嫌だろうから。

ところが数か月も経たないうちに人となりが見えて来るせいか「ねえねえ、尾崎さんってさ・・・」とあちらから話しかけてくれるようになり、ある日二人きりになったときには、目を合わせずそっぽを向いて喋るというのは同じなのだけど「あのさ。色んなナースを見て来たけど、いいナースさんだと思うよ。」と言う。

え?と顔をあげて見つめた。こちらを見ない人だから見られるのも嫌かと思い、こちらも目を合わせないでいたのだけど。

なんか、赤くなっていらした。

「だから。派遣で去ってしまわないで、ここに居てくれることになって、こちらとしては嬉しい。」

それだけ言うと、タバコを水入りの灰皿にジュッ!と投げ込んでバタンとドアの向こうに去って行った。

かっこいいなあ、かわいいなあと思った。

つい最近のことなのにとても懐かしい思い出になっている。

結局、それから色んな話をした。

唐突に「今日は母の命日だった。急に思い出した。」とお風呂の最中に話してくれたり。

逞しい娘さんをお育てになったのね。で、何で思い出したの?と慌てて受け答えするとか。

はたまたある時は「えー?子供いるのー?晩御飯作ったりするの?あなたには良いお母さんでいて欲しくなかった。飲んだくれていて欲しかったなー。」とか言ってくれるし。どういうこっちゃ。

そしてつい最近、体調の話をして来た。人が引けた後、屋上の階段をタタターーっと降りて来て私の前に座ったかと思うと数年前から危惧しているという症状を話してくれたので「いやあ、それは病院へ行こう。婦人科だよね。」という話をする。

「だよねー。手術になるかなあ?こういうのをIに話すと『だから!早く病院行け!』って怒られるんだよね。」

そりゃ大事な相棒だもんね。そう言いもするわ。

・・・・・・・・。行くまで言い続けたいけれど、それはうるさいだろうから、一つだけお願いがある。強要しないけど、もしも病院へ行ったときには報告して。安心したいから。

そんな約束をして一か月ほど経ったある日。

「行って来たよ。来週詳しい検査結果が出るけど、多分オペだって。どうしよう。オペ後は事務職の人でも一か月療養するんだって。この仕事じゃ、どんだけ休まなければならないんだか。」と。

そうだよね。すげー、力使うし動くもんね。そうなるともはや私の知識では相場が分からない。

そんなわけで、身体の面では治療の手立てが見つかってホッとする反面、仕事のことを気にしている。

無理もない。

入浴係は他にもいるが、要となる人物はIちゃんとこのHさん。他の人も頑張っているものの、別格に状況を切り盛りし任せられる人二人だから。

でも、仕方ないよね。身体が大事。何とかなるさ。(た、多分)

そして、Hさんが喫煙所を後にしたあと、Iちゃんと私の二人きりになったときのこと。

それまで黙って聴いていたIちゃんがぼそりと言う。

「Hが休む間、やつの出勤日は全部あたしが出て来る。だから何も心配しなくて良い。」と。

短く一言言って後は煙を出しているだけ。

以前、あっちの仕事はそんなに疲れないけれど、こちらの仕事はお金が安い上に「くそ疲れるわっ。」って言っていたのに。

それにあちらの仕事だって好きだろうし。

さらに言うと、Hさんの前では「病院行けっつうのっ!」ときつい物言いしかしていなかったのに、居なくなると「あたしはカバーできるから心配要らない。」と私に言って来る。

頼もしいやら優しいやら・・・、でも・・・。

と、言葉を失っているとそれが伝わったかのように「そういうのは気にしなくていい。」とキッパリ言われた。

この「そういうのは気にしなくていい。」と強めに言われたことは他のことも含めて三回目くらい。

ここでグチグチ「でも・・・」なんて言えない。

特にこの人だとそう感じるのだけど、”あたしを信頼しろ”と言っている相手に対して失礼になるだろうから。

そして多分、Hさんにも同じように言うんだろうな。

Hさんが治って復帰した後も、多分「たいしたことなかったよ。」と言うんだろうなあ。どんなにヘトヘトに疲れても。

キャッチボールのとき、暴投したボールのキャッチの仕方、かっこいいけれど。おしゃれでかっこいいのはキャッチボールのときだけじゃないんだね。

「でしょ?」と返って来た。

後は煙が漂っているだけ。

何の補足もない。
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今日も最後まで読んで下さってありがとうございました。あなたにとって良い一日でありますように。

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posted by かおる at 06:00| Comment(0) | ヒューマン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする