2017年04月25日

スモーク&ウォーター

ある日曜日、聞きなれないメロディーコールがどこからか聞こえていて、最初は下のフロアからの音かと思っていた。

よく吹き抜けから階下のナースコールが聞えて来て混同してしまうからだ。

ホームで言うナースコールが呼ぶのはナースではなく、ほとんどが介護職員の方々を呼んでいる音だ。トイレが終わったよとか、椅子から立ち上がったよとか、その他諸々。

何十年もナースコールに反応して来た身としては落ち着かないのだが、それらを無視するという状況にある。何故ならば行っても役に立たないことが多いし、長いこと介護している人々こそが熟知している一人一人の身体の癖や習慣があるから。

でも、その音を聴いたとき、何故だか行かなくちゃ。どこから鳴っているのか見つけなくちゃ。と、そういう思いにかられてフロア中を探し回った。

私が探し出すと他のナースさんたちも探し始めた。

そしてほどなくどこから鳴っているのかが分かった。

第一発見者は私。何せ探そうと思って動き回ったから。

”あの人が探しているから一緒に探さなきゃ”じゃないわけで。

すると、少々体格の良い方がトイレが終わった後狭い壁と壁の間の床に座り込んでいた。

あ、大変だ!と動揺したものの、すぐには手が出ない。下半身が著しく浮腫んでいる上に衣服を身に着けていない。それに狭い。

どうやったら、痛みを感じさせずに持ち上げられるのだろう?助けられるのだろう?と躊躇したのが数秒間。

意を決して抱え上げようと手を出そうとしたその時、私とその人の間にスッと腕が入って来た。

え?

一瞬のことだったけれど、どうやら私とそうそう変わらない身長の女性の影。

入浴係のIさんがたまたまそこを通りかかったらしいのだけど、無言で腕を出し、片手でその人を持ち上げて便器に戻した。

片手?しかも黙って。あと、早すぎる。

かなり汚染しているのに手袋一つせず、散歩の途中で通りかかったからついでにと言う雰囲気で終始無言で。

あ、ありがとう。。。と言うのと同時にビックリした。

その行動と動きがほとんど本能的で、全く予備動作もなく、全く考えることもなく自然だったから。

よく傍から見て「動じない」とか「何でも速い。」と言われて来たけれど、その時の自分が非常に考え過ぎるのろまな生き物のように思えた。

しかも、何、あの力。

そのまま去って行こうとするのはその後バイタルを測るのも何もかも、”それは自分の仕事じゃない”と分かっているからなのだろうけど、何事もなかったようにスタスタ行ってしまうので「ありがとう!あの!ちょっと!ありがとう!」と声を大にする。

わずかに片手があがって、うんうんと頷くのが見えた。

*******

昼休み、少々仕事が食い込んだ。いつもよりちょっと遅めに屋上へ行く。喫煙所兼待ち合わせ場所。

タバコをくゆらせていたIさんと一階に降りる、グローブを持って。

今日はK姉さんもいるし、何と、外でAちゃんが待っていた。ブラックのグローブをつけて。

あ。。。ほんとに持って来たんだ。離婚相手のところから。

わざわざ取りに行ったんだ、本当だったんだ。面白い子だなあ。

どうでも良いのだけど、初めてAちゃんが参加した前回同様、ボールがとんでもないところへ行く。

前回も「もう!Aちゃんのせいでキャッチボール禁止になっちゃうじゃんか!」と怒っていたのだけど、今回はこれまた到底取れない場所にボールが行ってしまった。

全員「・・・・・・・。」。

まあ、私たちも久しぶりにやったときはそんなもんだったし。。。そして今は短い昼休みだからボール探しに時間を割いている暇はない。だから、後程取りに行くとして・・・・。

軟球一個と硬球一個しか持っていない私。要するにこれが私たち四人が保持するボールの全て。

その軟球が取れなくなってしまったので自ずと硬球でやることに。

さすがにAちゃんも慎重になった。

それは良いのだけど、剛速球のK姉さんに向かってIさんがもっと凄い剛速球を投げる。

K姉さんが取る度に「いったーーい!」とグローブをはずして掌を確認している。遠目に見ても分かるほど、真っ赤になっている。

その様子がおかしくて・・・というか、凄くて。

しかも、Iさんが事務の要のK姉さんにボールを投げつける際「午後、パソコン使えないようにしてやる。」とぼそりと言いつつニヤッと笑いつつ投げている。

「なにーー?」と爆笑しつつ、そして痛がりつつキャッチするK姉さん。

でも、Iさんは私に投げるときには、気がつかれない程度に弱く優しく投げている。

痛くない。そして自然に投げ分けているのであからさまなひいきには見えない。

それが少し嬉しいのだけど、かなり悔しい。

道を歩くときにも、Iさんは絶対に私を内側に入れて自分は車道側を歩く。多分無意識なのだろうけど、場所をずれようとしても自然に内側に格納されてしまう。

何だか弱きものとして扱われているのが悔しい。

けれども、おそらくは客観的、そして無意識に判断して黙って施される優しさに未だ度々ビックリする日々。

ロッカーに菊池のカードを貼ってくれていたのが嬉しかったので、私も引き当てたIさんが若干好きな選手を貼ろうとしていたら、横から「おはようございます。」と現れるので貼る前に見つかってしまいロッカーに手を伸ばした姿で硬直。

ほんとに、トイレで利用者さんを抱えようとした時と同様に横殴りのように現れる。

あ、う、これ、今貼ろうと思って。。。という一日の始まりだったのが、それから9時間後だか10時間後、帰りの電車の中でIさんからライン。

「カード、ありがとうございますね。」

何か重要なことでもない限りラインなんて一切送らないだろうなと、いかにもそう見える人なのだけど。

富士山のビューと言い、今回の目まぐるしい一日のほんの始まりの一つの出来事への「ありがとう」と言い、いちいち心に染みる。

本当に全てが異質なのだなあと思う。

その違いを大切にしたい。

ので、自分のことを頑張ろう。

あちらの世界とこちらの世界のキャッチボールが対等に出来るように。

********

その人は無表情で、いつも静かにつぶやきながら私を笑わせる。

まるで腕の振りだけ見ると軽く投げているようにしか見えないボールが伸びて剛速球になるかのように。

一方、Iさんほどではないが冷静かつ表情少なきAちゃんも、逆に表情豊かで声が大きいK姉さんも「楽しい!尾崎さん、面白い!」と言ってくれる。(どこが面白いのかはサッパリ分からないけど。)

あとは、少なからず言葉に出していたり、はたまた、人づてに「あなたと接してると楽しいって言ってたよ。」と伝わって来たり。

が、Iさんは楽しいのか?

「はい、はい。」と仕方なく付き合っているわけではないのか?

そんなことをふと思っていたとき、横でZippoがかちんと鳴った。

水を飲みつつタバコの煙を吐きつつ、Iさんが言った。

あたかも巻きタバコの煙が静かに吐き出されるのと同じテンションで。あるいは水を飲むかのようにあたりまえのように。

「バーベキューも行かなきゃいけませんね。」

・・・・・・・・・。

今、二人しか居ないよね?

行かなきゃいけないって・・・・・。あと、ほんとに行きたいのか・・・?

突っ込みどころ満載の表情とテンションとセリフだったが、絶句したまま、こちらも無言でうんうんと頷くばかりだった。

とりあえず、こちらも、水と煙。
*****
今日も最後まで読んで下さってありがとうございました。あなたにとって良い一日でありますように。

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posted by かおる at 06:00| Comment(0) | 恋愛・友情・仲間とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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