2017年07月16日

歴史 / むかつくことはむかつくけれど

カウンセリングと教育分析とで四時間ばかり共に過ごした依頼人さんとはもう長い付き合いになる。

前のそのまた前の事務所が初めての出会いだったので。

それからお互い環境や状況が変わって行ったので思い出深いことが色々とある。

変わったなあーと思う。

そして今日は互いの相違点を面白がっていた。

それぞれの学び方、成長の仕方があるもので。

互いにやって来なかったこととやって来たこととが両極端。

照らし合わせてみると面白いもので、全く違うと思っていたことの話をしていたのに共通点が沢山見つかる。

実は地続きだったのね。

これからもよろしく。

*******

くそ真面目で仕事のことばかり24時間365日考えているようなKが初めてキャッチボールに参加したとき、整った顔に黒縁眼鏡ーという印象のK。

私もIちゃんもKもそれぞれ違ったタイプの無表情女だと思っていたのだが、少し大きめの声と笑顔で「やばい。楽しいです!」と言った。

介護職とは休憩時間が違うのであれから一緒に出来たのはほんの2〜3回。三か月ほど前のこと。(それを思うと入浴チームのIちゃんと看護の休憩時間が同じで良かったなあ。)

オールスターを観ている最中のKからラインがぽんぽん飛んで来る。

私はまだカウンセリング帰りの電車の中だったのだが。

他愛のない野球の話をしているが、こんなにしょっちゅう接する相手になるとは思っていなかったなーと思う。

もう会話を止めようと思っていたら”またキャッチボールしたい。バッティング、行きたいです。その間、私でも何も余計なこと考えないんですよ。”と飛んで来た。

そりゃそうだよね。特にあのキャッチボールを思い浮かべる。

私らの趣味は集中していないと怪我することばかりだもの。

バランスが良いんでないの?

一生懸命働いたり人生考えたり、笑ったり煮詰まったり、そして一生懸命遊ぶ。

固い仕事を一緒にやったり、子供のように遊んだりしているのを幸せに思う今日この頃。

昨日、道すがら、Kがまたむかつくことを、さらにむかつく言い方で言って来るので喧嘩になったのだが。

後ろから自転車を引っ張りつつ歩いているIちゃんが「仲、いいな。」と言った。

そしてそれぞれの場所で眠ろう。

辛い日も楽しい日も、違う場所でも同じ夜の下。
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2017年07月07日

マジなこと

上司不在の折、ハプニングが二つ三つと起こる。

名前を呼ばれることの連続。

インカムで応答中に固定電話の外線が入るので優先させていると、その固定電話で話している最中にピッチが鳴る。

口頭で何か言おうと順番待ちのスタッフの顔を見ながらそれらに対応しているわけだが。

インカムにピッチに電話に口頭に、入り口がそんなに幾つあっても応答する脳は一つしかないわけですから意味無いっすよ。

「どうしましょ?」と言われるので、えーと、あーしてこうして、あれをこうすれば良いと思うの・・・と言っている時間が惜しいので現場まで歩いて自分がやっている。その方が早いから。

それでもやろうと思っていたことがまた先延ばしになっている。

ダメだなあー、キリがないから今日は帰るかーと、とある利用者さんの熱を測りつつ、ぼーっと思う一日の終わり。

それにしても、今日は以前にもちらほら感じていたことを色濃く感じた。

「これこれしかじかだってよ。もう聴いた?」と介護の主任に訊く私は多少早口でてんぱっていると思う。

が、「はい。聴きましたよ。」という彼の口調はいつもと変わらない。目も泳がない。こんな状況なのに。

その彼のさらに上司の介護の課長も表情一つ変えない。

そう言えば、いつも慌てない。

職種が違っていて着眼点が違っているとか、看護サイドの人間として何が怖いかということを知っているからだ・・・というふうに思っていたのだが。

ちょっと違うみたいだ。

さすがにそこまではやっていないけれど、まるで両手を頭の後ろで組んでプラプラ歩いているような気楽さ。

けれどもやることは成されている。

とある科のドクターが来て物品の場所を尋ねられたので初めてインカム使って名指しで彼の名前を呼ぶと「はいーっ。●○です。」と返って来る。

〇〇先生がいらしているのだけど、〇〇はどこに置いてありますか?!と訊くと「今持って行きます!」

いや、持って来なくて良い。今先生がそっちに降りて来るから。そこで使うものだから。と、これもまたてんぱってしまったのだが。

「はーい。了解です。」と落ち着いた返事。

それからしばらくして、今度はこちらが名指しで呼ばれたので「何?!」と応答すると「今ナースステーションに居るんですけど、これこれしかじかを僕が持って降ります。(ついでだから。)」と聴こえる。

え?う、それ、こちらの仕事なのに。

てんぱっているのが分かるのね。

でも、”ありがとう。助かります。”と返事した後に、チェック前の物品だったことに気が付いて結局は彼らの介護ステーションに降りて行くという何という要領の悪さ。

案の定揃って無かったし。

が、余裕があって、しかもこちらを助けようとしてくれているその空気に少し目を覚まされた。

何か、器が大きいのね。ごめん。あほなのか?なんて思っていた時期があった。実は、慌てずともどうにか出来るという構えだったのか。

これは若さとか性別の差じゃないな。脳の差なんだろうな。

傾向的に看護の課長と私はいつもどこかカッカッしていて、介護の課長と主任である彼らは一定のペースで落ちついている。(ええ、色んな意味で何があっても。)

で、看護の課長と私はどちらかがキレていると客観的に自分を見るかのような気がして押さえに回っているような。

そして彼らは無条件に互いを尊重し合っている。

別にどちらも悪くはないがエッセンスは貰いたい。

どうにかしようと思うと本気で考えるものだ。そして変わって行くものだ。

出来ないとき、人は何かを考える。

******

それとは別に私の頭を占める比率が高いことがあって。

それは強烈なインパクトを持っていて。

とかく、そのことだけに心を奪われがちでどうしようもない。

けれども、それだけではないなあとうっすら分かっている。徐々に。

かと言って頭から離れるわけではないが。

今日も噛み合わないメッセージのやり取りで、最初のイメージと私の中身が違うことに違和感を感じらているんじゃないかなと思った。

かと言って合わせられないんだよね。

合わせたところでそんなメッキは長続きしない。

それはとても悲しいことだけど、変えられるものと変えられないものがあるんだよね。

自分であるということは、リアルな哀しみだ。

変えられない。

全てを捨てて好かれよう、期待に応えようと、なりふり構わずなれたなら、それはさぞかし可愛い人間だろうに。

残念。

風呂入ろ。
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2017年07月04日

素直

今まで関心がなかった・・・というよりも、むしろ毛嫌いしていた世界で、素直というものの素敵さを思い知る。

何でこの人はこういう物言いをするのかなあ。何でそんなことが言えるのかなあ?と思っていたものの、そうか、正直なだけなのかということがじわじわ伝わって来る。

そうなのか。強いのか。恐れないのか。

人にどう思われようとかまないし怖いのは一つだけだから、後は怖いもんなしだなあと思っていたけれど、とある人の言葉を聴く度、読む度、行動で示される度、自分が如何に怖がりだったのかということを思い知る。

そしてその人の怖さを知る。

疲れた目を見る。

そりゃそんなに本気でぶつかったらそういう目になるでしょう?あたりまえでしょう。

なのに、どうして、そんな。

背負っているリスクよりも気持ちに正直なのか。

私はなかなかそうはなれない。

ただ思うのは、生きるために生きているのではないということ。

気持ちや心というものは魂から出ている枝のようなもの。

どうやら伐採してはいけないらしい。生きたまま屍のようになってしまうだけらしい。それを切ってしまっては。

そう思いつつもついつい習慣で盆栽のようにカットしてしまうこともあるのだけど、少なからず触発されて伸びて行く。空と地に向かって。

********

夕方、いつも豪快な女子が不安を訴える。

まだその話しているのか?!と驚いたのは朝からずっとそうだったから。

いくら大丈夫なのだということを論理的に説明してもずっと目が泳ぎっぱなし。聴く耳を持たずきょどっている。

論理が通用しないのなら仕方ない。

その場に二人しかいなかったのでレイキをかける。と言っても掌にアメシストのタンブルを載せて手の平だけにかけた。

充分だった。

呼吸が1分で落ち着いた。

ビックリした彼女が「何、これ?!」と仰るので外気功ですよと普通に答えた。

二つ上の姉さんは、いつもの元気な姉さんに戻って行った。

その人らしく。

この場で意識的にレイキを使ったのは初めてだなあ。最も全身から嫌でも出ているのだろうけど。

恐れが消えたわけではない。ただレイキのセンタリングはホルモンにも勝つのだなあと軽く嬉しい喜び。

気持ちが分からないわけじゃない。むしろ誰より知っている。その不安、その恐怖。

だからこそ、ある人の強さを痛感する。

*****

その後、いや、その前からか。あの人も恐れていることがあるのだと知っている。

だから、その心配はないのだとそっと伝えた。

嬉しさが伝わって来る。

これで互いに眠れるだろう。
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2017年07月01日

タフ

ごく私的な感情表現で、言わなくとも態度で察して欲しいと思うことがある。

そういったことって日本人には多いのだろうけど、個人的にはあるプライベートな分野で多々ある。

例えポジティブなことでも言うのが恥ずかしかったり照れてしまったり。

そういう人間なのでいつも、その分野に関してだけだけど、相手に努力させてしまっていることが多いなー。

そうしなければこいつは何もしないだろうし続かないとある種のタイプ・・・いや、かなり多くの人が貴重な手を貸してくれているのだろうと思う。

そんな中で、どうしても私の方に素直な気持ちを言わせようとする人が現れる。

どうしても言葉にさせようと同じ質問をして来る。

ごく稀にそういう人が居ないでもないのだけど、私の反応が薄く見えてあきらめてくれるという状況になっていたのに。

何だか精神的にタフな人だなあと思う。

「こうでいいんですね?こうしたいんですね?」と、言え、言え、言葉にしろと、向かって来る。

思い切りへこむ人の素直さに以前ビックリしたことがあるのだけど、全くへこまない人のタフさに唖然とする。時にはドキドキ。

いや、もしかしたらへこんでいるのかも知れないが立ち上がるのが早いのだろうな。こちらから見ると一瞬にも満たないスピードで立ち上がっているんだろうな。

通常だったら少しでもこんな傾向の人が居ると、うざいと思ったり怒りがわいて来たり、気持ちが悪いと思ったりするのに、何故だかこの人にだけは感動してしまう。

そして、いつの間にかストーリーに乗せられているかのような。

温度が高い。

その温度の高さがやがてこちら側の心身までもを温め尽くして行く。

生きるって凄いことだなあと思い出す。

******

カウンセリングという現場で出会った方々のある種の人が人生にどんどん目覚めて行くのを見て来た。

それはまさに段々血が通って来て生きることに目覚めていくかのようなペース。

もうこれ以上は・・・と思ってもそこから先は季節の到来と共にさらにどんどん目覚めて行く。

それはカウンセリングという現場が日常を凝縮したものだから分かりやすいというだけで。

普通の日々の中にもそれは普通に起こり得るのだなと思う。

極端な人々の個性にビックリしたり面白いと感じたり、戸惑ったり。

そして中でもあの人の裸の心に。

思い込みを現実に換えて行ってしまうほどのパワーに。
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2017年06月25日

グレーの翼

晴れているのに低気圧の中に居るような体調。

そんな中でもやることが沢山あるし。

カウンセリングの方もそうなのだけど、まあホームの方も片付かない、片付かない。

そんな中、同じ階でKが早朝から夜遅くまで働いて居る。

関連する仕事なので合間合間にちょいちょい喋ってはいたものの、夜になると「おい。」となる。

いつまで居るの。いつまで働くの。数時間前にとっくにあがる勤務帯でしょうが。

「いいんですよ。分かってますよ。」

そしてこの日は何だか毒舌が少ない。あと、喋り方が朦朧としている。

ああ、そうか。この曜日は子供たちをお迎えに行かない日なのだな。

気が抜けて疲れがどっと出ているのか。でも、悪くない顔をしている。

とうとう私が終わる時間になってロッカーで着替えていると、やっと上がって来たようで、私の数秒後すぐにロッカーに入って来た。

そして私が着替え終わると「大変ですね。これからK市まで帰るんですよね?」と。その口調に毒舌の片鱗が若干戻って来ていた。

そうですよ。田舎に帰りますよ。Kもあんまり根詰めないでご飯食べてしっかり寝てね。

そうして互いにお疲れ様ーと言い合って別れたのだが、それから大分経ってバスの中で電話が鳴る。

てっきりホームの介護職員さんからのオンコールかと思いきや、Kからの電話。初めてだな。でも、それにしてもさっき別れたばかりなのに。

どした?と出ると「あー・・・。この音は電車の中ですね。あーあ・・。」。

いや、まだ駅に向かうバスの中だよ。どしたの?

「このまま帰ると何も食べないで寝ちゃいそうなんですよ。あの、それで・・・。」

ご飯食べる?

「私、あの、・・・」

ご飯食べて帰るか?駅で待ってるよ。

「いいんですか。」

で、バスが駅に着いたので降りると、真正面からKが歩いて来るのでビックリした。

Kは後から職場を後にして、しかも自転車なのに。すげー飛ばして来たんだろうな。

どこに入る?私、あんまりこの辺のごはん屋さん知らないんだけど・・・。

「食べるものは何でもいいんです。」

???ああ、あそこなら知っている。一軒だけだけど。

と指さすと「ああ、あそこはママ友に会うかも。」と嫌な顔をする。

じゃあ、どこよ。

するとKが希望したのは、つい先日IちゃんとHさんと四人で飲んだ居酒屋さんだった。

ご飯じゃないんかいーー。それにさっき”K市まで帰るの大変ですね。”と言ってたのに凄い矛盾。

「私も明日、また朝早くから仕事ですから。」

言ってた、言ってた。私の研修の前の日もそんな言って飲みに誘って来てた。

でも、嫌ではない。

それで互いに体力の温存ゼロの状態でさしで飲んだ。

仕事のこと、プライベートのこと、色々と話してくれたし、まあ、色々訊いて来る。

誰にも言っていないことですら話してくれた。

仕事のことで言えば、先日何年かに渡って改善されなかった問題に対して即日動いたときのこと。

珍しくしおらしく礼を言って来る。

そんなもんで予想外に夜が遅くなって翌日の今日は今日で「あのこと、皆守ってくれています。感動しました。ありがとうございます。」と仕事の合間に言って来る。

で、ロッカーにはいたずらではなくて良いものが貼ってあった。

どしたんだ、K。気持ち悪いぞ。

でも、そんなふうに思っていること。あれもこれも。

あなたがかすかに表現したことを全部受け止めよう。

*****

何もかもが同時進行なのだけど、思わぬ時間帯に「ええーー?」と言う出来事があった。

やられた。

ほんとにもう叶わない。

どの人もこの人も皆激しいなあ。

かっこつけるとか、そういうのが無い。

で、本当に悪いわ。

悪っ。

でも、いちいち熱い。

私はただただ、タジタジしている。

でも、嫌じゃない。

その素直なパワーに圧倒されて無理だと思ったことをもしかしたら乗り切れるかも知れない。
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2017年06月22日

渇望している何か

ジャンキーという言葉がある。

元々はヘロインの中毒者をさす言葉だけど、日本語で『 ジャンキー』と言う場合にはおおよそ全ての違法薬物の中毒者を指したりする。

そこから”ジャンキーな食べ物”とか”ジャンクフード”というような言葉も生まれたのだろうけど、意味としては”ガラクタみたいな食べ物、意味のない食べ物などと言うことらしい。

要するに意味のないことをする人はガラクタだと暗に表現されていたり。

でも、ふと思う。

何かに夢中になれる全ての人とジャンキーの原理は根本的に同じようなもの。

例えば野球ばかり、サッカーばかりやっていて後々プロになった人々とか。

気が遠くなるような練習を毎日毎日続けたり勝つ瞬間の喜びが忘れられなかったりと色々な要素がある。

ランニングが好きな人は走っている途中で何も考えなくなるし、数学が好きな人は夢中で何時間も数式と向き合っていたりする。

よく不思議に思うのは、幼い頃から好きなことをすると「それをして何になるの?」とか「いったい何のために?」と言われること。

本当は生まれた瞬間から何かのためにこれをやろうなんて思った人なんていない。最初はそれが面白かったしその人にとって興味深かったからいつのまにか集中していたのだと思う。

どんな色やどんな動きに笑うのか?ということは生まれつき決まっているから。

なので、先に「●○になりたいのでこれをやる。」という目的がくっついていると大抵はおかしなことになる。

そっちが最初だとよく分からない挫折感や絶望がセットでくっついて来るのだろう。

で、私は良い意味でも悪い意味でもジャンキー要素がある人々が好きなのだと思う。

KJ法のように目的や出世欲などが先なのではなくて、今やりたいことを大事にしてからの未来をくぐる人たち。

ただし、悪い意味でのジャンキーを全く抜け出そうとしないのはただのだらしない人なので嫌い。

けれども一番好きなのはそこから自分を立て直して来た人だろう。自分の弱さを知っているから。

本当は意味のないことなんて何一つありはしない。

それが分かるのはすぐかも知れないし、場合によってはずっと先のことかも知れないが。

激しさや極端さや何かを渇望する人、人間的で優しい人が大好きだ。

そんな人々は、優しさ故に、少々悪い。悪くて素直なのだ。

真面目であることと、陰気で暗いことは全く違うということを知る人々。

そう言えば固い仕事をしている職場での昼休み。

キャッチボールについて「いったい何のためにやってるの。」と言われることがある。

面白いからだよ。

「チームでも作るの?」

これをやっているからと言って、必ずしもチームを作るためとは限らない。だから、面白いから、好きだからやっているだけだって。

非常に愚問だなあと思う。

何かのため、誰かのためになることしかやってはいけないという考え方は全てのストレスを生む。

そんな単純なこと。

やりたくないこともやらなければならない世の中だから、それ以外はやりたいことをやればいい。

薬だのお酒だのたばこだのギャンブルだの、恋愛依存症だのと有名どころの依存症は数多くあるけれど。

ああ、そうだ。カラカラッの心を恋愛依存症という形で満たそうと仕事中にまで思っている異性がうっとおしい。

けれども、ふと思う。パーソナルスペースに侵入されたとき、怒りや不快感を覚える相手と、逆に心地よいとか嬉しいと感じる相手が存在するのは何故なんだろう。人類の不思議。あるいは男女の不思議。

それは多分、自分も相手を同じ程度に渇望しているときなのだろうか。

けれども、それ以外はきちんと鍵を閉める。

私は開きっぱなしの人が嫌いなのだと思う。

他人で自分の心を満たそうとする人は、鍵を開けるどころか、網をかけたりロープで足を引っかけたりしてでも引き入れようと頑張る。

でも、見えすぎてすぐに飽きてしまうか、もしくは入るまでもないと思われてしまう。

それでも、逆に自分で自分を満たせる人が渇望していたとしたらどうだろう。誰かや何かの対象に価値があるとみなしたのなら、それは本当に価値がある何かなのだろう。

私はと言うと、自分一人では自分を満たせない人間の一人でもある。
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2017年06月19日

暖かな手

昨日は看取りの研修会へ行って、今日はカウンセリング。

どんな話題であってもそこに心理学が介在するので、看護の一分野、いや、総決算とも言える看取りと心理学とを照らし合わせる。

結局その人らしく、自分らしくエンドステージを迎えるというのは、今日を自分らしく生きるということだな。

最後の最後になって修復しようとしても多分間に合わないことだろう。

その修復やら、とにかく悔恨を残さないように最後を迎えるために介入するのが看護や介護でもあるのだろうけど、なるべくそののりしろを自分でまかないたいものじゃないっすか。

自分らしく生きていないと最後はそういったスタッフの人々に心労をかけてしまうから。

私は今日を自分らしく生きられたかな?今を自分らしく過ごしているかな?

100パーセントそうではなかったけれど、この問いかけに対しての答えは”できる範囲でそうした。”という答えだった。

そうだな。出来る限りのことをやったな。

そして人に教えられたな。

*****

願いとは、一人ではかなわないものでもある。

ふとしたメッセージで心が報われる。

ある人のことを思う。

この人はなんだってまた約束を増やすのだろう。

でも、その約束に救われ、素敵な思い出を振り返り、血が通っている自分が居る。

暖かい手を思い出す。

ブルハの”夕暮れ”という曲が流れている。

夕暮れ

作曲:甲本ヒロト
作詞:甲本ヒロト
はっきりさせなくてもいい あやふやなまんまでいい
僕達はなんとなく幸せになるんだ

何年たってもいい 遠く離れてもいい
独りぼっちじゃないぜウィンクするぜ

夕暮れが僕のドアをノックする頃に
あなたを"ギュッ"と抱きたくなってる

幻なんかじゃない 人生は夢じゃない
僕達ははっきりと生きてるんだ

夕焼け空は赤い 炎のように赤い
この星の半分を真っ赤に染めた

それよりももっと赤い血が
体中を流れてるんだぜ

夕暮れが僕のドアをノックする頃に
あなたを"ギュッ"と抱きたくなってる

幻なんかじゃない 人生は夢じゃない
僕達ははっきりと生きてるんだ

夕焼け空は赤い 炎のように赤い
この星の半分を真っ赤に染めた

それよりももっと赤い血が
体中を流れてるんだぜ


タフに人生を生き抜いて来た人の暖かな手だった。
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2017年06月17日

唐突なことのようで決められている何か

頭がパンパンに膨らんではいるものの、せっせと仕事に励んでいる日、入浴場に降りて行くとIさんとHさんというレギュラー+Kが介助に入っていた。

Kは上機嫌だった。

「何がそんなにおかしいんだ。」とHさんが言うとIさんが「嬉しいんじゃない?」とあいかわらずクールに言いつつKに愛情を注いでいる。

何度か処置のために降りていると、午後の始まりの頃だったか、Kが「今日、この4人で軽く飲みに行きません?」と言う。

私、明日研修で朝早いんだよと言うと「あたしだって早出ですよ!だから軽くって言ってるじゃないっすか。」と言う。

そう言われると返す言葉もなく、それ以上に好きなメンバーだったので最寄り駅で少しの間杯を交わす。

毒舌が続く中、Kが「このままじゃ誰か倒れてしまうんですけど。」と介護の体制について嘆きだした。

Iちゃんはそういう話になればなるほど一切聞かず私にプロ野球の話をふって来る。

嫌いなんだよね、Iちゃんはこういうの。例えどんな真っ当なことでも愚痴とみなせば聞かない。

私はKの話を真面目に聴きつつ、Iちゃんと同じプロ野球のアプリを広げっぱなしにしている。

大丈夫、大丈夫だって。そういうことなら改善して行けるから!とKに真面目に答えつつ、ふと思いついて言う。

あのさ。Kは家に帰ってからもずっと仕事のこと考えているの。例えばそういうこと。

「考えますよ。」

私もそういうところが往々にしてあるから気持ちは凄く分かるんだけど、止めた方が良いよ。

私がそういうと、一切聞いていなかったかのように見えたIちゃんが突然「うん。そうだよ。」とアプリに目を落としたままで言う。

でも次の瞬間、「逆転しましたね!」と私に言う。

そうですね!

幾つかの是正案をKに対して真面目に述べた後でもあるのだけど、さすがにKも仕事の話から逸れて行ってゲラゲラ笑いだす。

Hさんが飲み物を注文していると「なんで自分の分だけ頼むんですか?!」と言っていてHさんが「自己中だから。」とケロッと答えている。

自己中で、こちらも気が楽です。私も自己中だからと答える。

ほんの短い間にIちゃんはプロ野球を見つつどんぶり飯を三杯も食べていたので圧巻。

楽しかった。

約束した是正案を出来る限り実行して行かなくては。

これからまた色々変わって行く。

そうして思う。

私はKに切り替えろと言いつつ、同じような性質を持ち、知らず知らず何かを背負っている。

そしてIちゃんは何も背負わない。見事なほどに。

その差は良いも悪いもない。

ただ、現実は心の世界までもを表す。

****

先日、思わぬ一日を過ごした人とすれ違う。

話す暇は一日のどこにも無かった。

寂しさをそのままに送って来るラインのメッセージ。

独特だなあと思う。

皆独特過ぎる人が多い場所だけど、色んな要素が付随して、特にこの人は独特。

どうなるんだろうね。

と、一人の頭で考えたところで。

全てのことは最初から決まっているので流れに任せるしかない。

ただその小さな流れを作るのは自分自身の小さな小さな言動からだ。
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2017年06月16日

猫カフェとか井之頭公園とか

ある日、思いもよらない一日となる。

それが急遽決まったのが前日の夜。

だいたいのところ、人というのは仕事のやり方で中身が見える。

というよりも、仕事の現場というもの自体が最も中身が出やすいと言うべきなのか。

だから、だいたいのところの好き嫌いが分かる。合うか合わないかも。

それは必ずしも真面目にやっていれば良いのかというとそれだけではダメで。

どこでストレスを逃がしているのかとか、馴れ合いに流されない部分とか、それでいて他者のことを考えられるところとか。

プライベートが自ずと浮彫になるので、たまたまその日一日を一緒に過ごす機会に恵まれた経過でも、それはハズレではないなあーと思っていた。

ただ、予想を超えるものがあった。

私も悪かったけれど、そこまでじゃなかったなとか。私も負けず嫌いだったけれど、そこまでだったんだとか。

そしてその強さを全くひけらかさず、かと言って失うわけでもなくずっと内側に秘めて飄々としていたのかーとか。

そしてそれよりスケールは小さいものの、結果的に私たちは似ているところがあるなということ。

それ以外のほとんどは大きく異なっているのだけど、心のずっと奥の方、芯の部分が同じ考えなのだあと。

聴いていて、まるで自分のセリフを聴いているようで驚いてしまった。

多分ずっと話すことはないだろうと思っていた人とふとしたきっかけでこんな一日を過ごしたのが不思議でならない。

心理学の話をしてしまった。

ごく少ないもう一つの世界を知る人の一人として選んでしまった。

人というのは、肩書だの資格だのキャリアがあろうがなかろうが、最後の最後は一対一だ。

丸裸になる。

そんな時にそういったものの話題抜きで自分のことを語れる人、素直になれる人というのは今日日少ない。

大きく見せず、かと言って卑下するでもなく自分の中身を話すその人と過ごして「こんなところは仕事では出てなかったなあ。」と思いつつ、思い返してみればちゃんと片鱗が見えていたことを思い出す。

「あの時さ。」と話してくれる職場でのやり取り。

ああ、そんなことを感じていたんだ・・と分かることが出来て嬉しかった。

子供になれる人とほど大人な人はいない。
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2017年06月11日

何も投げないけれど受け取る時期

ホームナースでの仕事中、時折新しい職員さんに出くわす。

時には喫煙所で。

初日に「●○です。隣接の施設に先日から勤務しております。看護師さんですか?」と挨拶された。

ああ、隣には喫煙所がないからわざわざこちらに吸いに来ている方々のお一人か。

それから4〜5回くらい遭遇することがあったが、まだ入職なさってから1〜2か月しか経っていない。

それでも初めての遅番や初めての夜勤の様子をほんの数分の間に話して下さっていた。

やはりきついようだ。体格良くて力もありそうだけど、神経的にきついもんね。職種が違ってもよく分かる介護職員の苦労。

「もうダメだなあ・・・と思って・・・。夜勤の回数は減らして貰おうと思っているんです。あーあ、あと数日で連休取れるから野球でも観に行って来ます。」

あ、野球好きなんですね。

という会話から始まったのだけど「見えないー。野球好きなんですか?」と訊き返される。たまたま胸ポケットにあったのがこれまたIちゃんがある日ロッカーに貼っておいてくれた丸選手のカード。

「カープ女子ですか?!」

いえ、そうじゃないんです。これこれしかじかで野球そのものが好きなんです。と分かってくれそうな人にだけにする説明をする。

彼女はカープ女子とのことでキャンプまで観に行く人らしい。

出たよ と笑うと彼女も爆笑していた。

そして昨日、昼休みが終わる10分前、Iちゃんと三階まで昇るべく一階のエレベーターの前で待っていると、相談員のSさんが向こうの方から「尾崎さーん、また転ばなかった?」と笑いながら早歩きですれ違ったかと思うと、一旦事務所に戻りすぐにこちらへ戻って来た。

「いつも疲れてるから、これ、飲んで。」と何かを渡して去って行った。

見るとそれはアサイーベリーで作られた健美酢というものだった。わざわざ綺麗に包装してある。

彼女とは互いの苦労が分かる故よく共感したり苦笑いしている。

独立職でそれぞれ違う立場でありながらも同じメンバーに関わる苦労の質が理解し合えているのでしばしばこんなことがある。

目を合わせただけとか、廊下をすれ違っただけで互いの疲れた様子や表情を観て吹き出し笑いを同時にしつつ「お疲れさまです。」とすれ違ったり。

きちんとお礼を言わないうちに去ってしまわれたのだが、それを横で見ていたIちゃんが「何、それ。」と言う。

「え?」

な、何か気に入らないんですか?

瓶ごと手渡しつつ「スーパーフードのアサイーが入っている御酢みたいだよ。多分水やお酒で希釈して飲めるやつ。」。

Iちゃんは一瞬手にとって眺めたが「けっ。女子が飲むものだ。」と投げるように返して来た。

あなたも女子でしょうがっ!
それに、人がプレゼントされたものをばっちいものに触れたかのように返すとは何事か。

まったくこの人と話していると、私はついつい声を大きくしてしまうことが多い。

そこを課長が通りかかって「あー、疲れた。今こそチョコラBB飲むわ!」と笑いかけて去って行く。

エレベーターを待っているほんの2〜3分の間だったのだけど、色んな人と色んな話をするというよくある場面。

お、思い出したのだけど、そのうちの最もくだらない数秒は、kyoneが通りかかり私を見ながら「ちっちぇーなー。ずいぶんちっちゃい看護師だな!」と去って行く場面。

なっ!

同じ身長のくせに!一まわり以上年下のくせに!しかも、私があんたに何をした?と反論する間もなく去ってしまわれるし、次の瞬間には他の人から別のストロークが飛んで来たり。

エレベーターがやっと空いてIちゃんと屋上で昼休みの最後の一服をするために乗り込んだわけだが。

その様子を不自然なほど至近距離で立ち止まって観ている人が居た。

急いでいる人々と短い間に色んな言葉を交わした故に、その人と一言も話せなかった。それが例のカープ女子だった。

誰がどこで何をしているか把握しているという魚眼な職業病なのでその人のこともずっと気が付いていたのだが。

最初はジャージ姿のIちゃんと私がグローブの袋を下げて二人でエレベーターを待っているのを不思議そうに見ていた。「何、この人たち。何で職場で汗かいてるの?同じ袋引っ提げて。どんな取り合わせ?」という感じでガンミ。
目は口ほどにものを言う。

本当は挨拶したかったし、「あ、これはね・・・」とか、実はキャッチボールをやっていてね・・・等、一瞬目が合った際に話したかったのだけど、先述のように慌ただしくて話せなかった。

エレベーターが開いても何故だか一緒に乗り込んで来なかったので「???」と不思議に思っていたが。

翌日である今日、喫煙所で会った。

そう言えば前日のその時、目の下に隈が出来てるな、元気ないなあとそれも気が付いていたのだが。

「夜勤はもうやめようかと思って。正社員を止めさせてもらえればしなくて済むかな。あたし、病んでるんですよ。」とタバコをくゆらせながら未だかつてないほど気落ちした様子で話す。

そして病院にかかって以前にもかかったことがある心の病が再発したことや仕事をセーブする話、親御さんの話をしてくれた。

考えてみればしっかり聞けば5分くらいでこんなにたくさんのことを聴けるのだなあと思う。もちろんそれは、この人の心を開く能力に寄るところが大きいのだけど。

私は、その対処の仕方や判断に「知識があって素晴らしい。良い判断が出来ていて偉いと思います。」と称賛を送った。

残り5分で内服薬についての話もしてくれて、それについても「良いと思います。命が大事。」と伝えることが出来た。

そして、必ず良くなるということ。

「うっ。」と声がもれていらした。

物凄く頑張っていらしたんだ。

弱いんじゃないよ。誰でもどこかが病気になることがある。その上で良い判断をなさった。

もっと早く話せれば良かったのだけど、何分仕事中も休み時間もこの喧噪。

ただ、出会ってからの逢瀬の時間を合計したとしても30分にも満たないこの短い間に、「話しても良い人間」と判断してくれたことが助かったし、自分自身も知ることが出来て良かったと思った。

今は何も言わないけれど。

そのうち治って来たら、キャッチボールしましょう。

今はこちらからはふらないけれど、あなたの気分が乗ったとき、また野球の話をしましょうよ。
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2017年06月10日

夢つくり

Iちゃんに野球のチケットは二枚で良いの?誰か誘いたい?と訊くとkyoneの名前が出たので「来月のこの日、野球に観に行く?」と訊いたところ、「あ、Iさんに聞いた。」と。

で、「行くのか、行かねーのか?!」とkyoneに言うと「行くに決まってるじゃないですか。」と例の口を尖らせる表情。

野球のチケットが郵送されて来たときには、とある危惧が。

私、こういうの、失くしそうじゃん。。。と思っていた頃、エレベーターの中でkyoneと遭遇したので「失くすかも知れないから・・・」と言った途端「私はもっと確実に失くすタイプ!ダメ!」と。はやっ!まだ何も言ってないのに。

これから頼もうと思っていたのに。

それじゃIちゃんに頼もうと意見が一致したのですれ違いざまに渡したのだが、後程会うと「ファールボールが取れるかも知れないよ!」と珍しく表情豊かに言っている。

そか。グローブ持ってってまうか。

「いやあ、哲人のボールは取れないだろうなあ。反対側に飛んでいくことの方が多い。」とか互いに違う方向に行きつつも話が尽きない。

まあ、とにかくIちゃんは封を開けて席順を想像して機嫌が良くなったらしい。

どうでも良いけど、またしてもkyoneが人のロッカーにいたずらをしていた。いったい何のコミュニケーションなんだ。いったい何のために。

********

ショートステイの利用者様の傷だらけの身体。

「風呂からあがりました」という報告を受けて処置に降りるわけだが、身体中の皮下出血がいたましい。傷も痛々しい。

この人が自宅でどうしているのか?ということにまでは介入できない。

ただ、「全部治してやるかんね。」と耳うちをした。

何も分からないと思われがちだけど、確かにその人には通じていた。

ふと見ると、Iちゃんは無言でその人の紙の毛を撫でていた。いつまでもいつまでも撫で撫でと。
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2017年06月08日

君の名は

とあるカウンセラーさんの教育分析をしている際に常日頃思っていることが言葉になった。

野球選手を始めとするアスリートの成長の仕方や生き方と、カウンセラーなど心理学をやっている人のそれは酷似しているなあ。。。と。

野球を見たり語り合ったりしていると、心理学に携わっている人々のことを思い出すし、逆にカウンセラーの教育分析をやっていると「この人やY選手タイプだな。似てるな。」と思ったりとか。

全然違うじゃんって知らない人は思うだろうけど、そっくりなのよね。

山田も金子もすらりと細くて野球選手らしからぬ。(まあ遠目にしか見えないのであくまで印象だけど。)

で、どちらも勝つためにとことん分析している。

怪我をすれば痛いから考えるし、怪我をしないで成長して行くにはどうしたら良いか?を考える。

目の前の人も何度も心の怪我をして同じ傾向や癖を自分の中に見つけ出してはそこを脱しようとする。

時にはある選手のように何か月も怪我の治癒に時間がかかることもあるのと同じで、この世界の人々も起き上がれるまで時間がかかることもある。

そう言えば、先日のカウンセラーズトレーニングの会で感極まった一人のカウンセラーさんが泣きじゃくりながら言っていた。

例えたエピソードを私が話している途中からその涙がポロポロこぼれていたのだけど。

「K選手はたまたま有名人だけど、ここに居る人たちも凄いんだよ。」と。

そうなの、私、それが言いたかったの。

誇り高き人々は、時に自信が無くなったり挫折したり、

しかし、それより何より大切なことを次のシーズンや次の場面で取り戻す。

凄いなあと思う、

この界隈は、すあ
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2017年06月03日

ナチュラル

重篤な皮膚トラブルが相次ぐ方を受診に連れて行った。

受診の付き添いなんて本当に久しぶり。

通常リーダーだと付き添えない。ただでさえ派遣さんがその役目を担うし、そうでなくとも大御所様たちが率先して「私が行きます。」と強く仰ることが多い。ああ、派遣の頃、あれはあれで楽しかったなあ。基本、総括的なことより外回りが好きなんだなとつくづく思う。

私がここに来た頃から繰り返されているその方の皮膚トラブルにKちゃんという介護の子と頭を悩ませて色々な方法を試みて来たが優秀な皮膚科医のコメントを聴く度に「そうか。。。生まれつき脆弱なのか。そりゃ、私たちの知恵ではどうしようもないはずだ。」と改めて感じる。かと言って決してあきらめないし出来ることはやっていくけれど。

そんな折、その方の入浴後の処置のため風呂場に降りた週初め。

私に「Aさんがあがりました。処置お願いします。」と電話をかけたIちゃんと、ストレッチャーの上でまだ裸でいるその方が何やら楽しそうにお話ししている。

で、私の姿を見るなりIちゃんが「Aさんも野球好きなんだって。ヤクルトファンなんだって♪」とご機嫌な調子で言う。

病状故暗い表情が多かったその方が笑顔になっている。

Iちゃん、そんなことまでこの方から引き出したんだなあ。それに意外だよなあ、Aさんがねえ。

ぼそぼそと何の気負いも感じられないいつもの調子で自然に相手に話させるんだなあ。

周りも自ずと注目していた光景だった。

そして今日、やはり処置のために呼ばれて降りて行ったら、あの時とまったく同じ配置、同じ光景だったのだが。

Iちゃんが私の姿を見るなり「ほら、噂をすれば来たよ。」とストレッチャーの上のAさんに言っている。

何々?と言うと、今度はAさんの方が答える。「あなたが好きな選手、名前なんでしたっけ?ほら、皮膚科に行く途中に話してくれていた・・・」

あ、金子です、金子。

「ああ、そうだったわ!もうーーー、すぐ忘れちゃって。病気してから全然野球を観るってことも忘れていたから。。。」

でもね、Aさん。Iちゃんの前で金子の話はしにくいんですよ。先日、ヤクルトを力投でやっつけちゃったから。

「別にいいですよ。」と言うIちゃんだったが、やべ、機嫌悪くなっちゃった。
人前だと敬語になるのだが、この時はそれが余計に機嫌悪さの表れとなっていた。

ふう・・・・。ねえ、Aさん。ほんとにもう、ヤクルトが勝ってくれないと私は困るんです。私自身もヤクルトは好きなんですが、それより何より、実害として、ヤクルトが負け続けるとこの人の笑顔が見れないんですよ。そりゃもう、ずっと!

しかもキャッチボールにも影響を及ぼすんです。

私の好きになり方と全然桁違いでして、この人の右手とヤクルトの勝敗は連動しているんですよ。

そう、先ほどの昼休みも「ちっきしょう。もう、こりゃ病気だ!」と右手をしかりつけて、とうとう休んでしまったほどで。

これがまた可愛いんだけど。

Aさんがケラケラ笑う。

Iちゃんは「家でも母親に『もうTV消してしまえ!この馬鹿者どもが!』って言ってる。」と。

AさんもIちゃんも普段あまりしゃべらないのによくしゃべるなあ。でも、楽しい。周りの視線が気になるけど。これ、普通に奇跡だから。

特にIちゃんに関しては、キャッチボールのとき以外で子供のように喋ってくれることはないので入浴場でも珍しいのだが、ここを離れたらまたそれぞれの仕事して話す暇ないよな。まためっちゃ他人行儀で「お疲れさまです。」と言い合い廊下を一礼してすれ違うんだよな。

そんなことを思っていた夕方、廊下を吸引機を引っ張って歩いていたら、普通に歩いていたIちゃんに出くわした。

で、私に向かって軽く「わっ!」と脅かす仕草をした。

・・・・・・・・・・。Iちゃん。姿、普通に見えていたし。それじゃあ、驚かないし。。。

が、その後、何のリアクションもなく、エレベーターも使わず階段をのしのしと登って行ってしまった。

呆然と見つめてた。ドアが閉まって完全に見えなくなるまで。

・・・・・・・・・・・。何、今の。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あ、そだ。吸引するために降りて来たんだった。

今日は、ヤクルト勝つと良いなあ。(結果、ダメだったけど。)

夕食時、Aさんに金子のカードを見せて解説した。

と、こういう選手なんですよ。

金子も凄いけれど、Aさんも凄いんですよ。○○ホームの金子と呼んで良いですか。

たちまちAさんが笑顔になる。

でも、この笑顔のきっかけは、先ほどドアの向こうに消えて行った人のおかげ。

エラーしたボールを取るために高いを塀をひらりと乗り越えたり、その塀の上から簡単に飛び降りてしまうあの人のおかげ。

誰といてもナチュラルな人。
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2017年05月28日

屋根がない場所で

毎月、最終火曜日の往診日は唯一立ち合えない。

それ故に自分が居なくても困らないように週末あたりからこの日の準備をしておく。居なくても分かるようにセッティングすべく提携先の病院にファックスを送りまくったり資料を用意したり。

この週末のバタバタは何も居ないときに限ったことじゃないのだが、誰でも分かるようにしておくというのが至難の業で。

それをただでさえ忙しい通常業務をこなしつつやるものだから激しく消耗。

それをよく観ている課長もナースなので「いつも思うんだけど、他のナースは何やってんの?」と訊いて来られる。

うーん、困る。ナースだから思うよね、それ、普通に。

それは。。。。いつも観ているので、彼女たちが何やってるのか?どんな様子なのか?が実は分かるのだけど問われれば困るのである。

しかも私よりも付き合いの長い課長はもっと事情を知っているわけで。知っているけど、あえて問わずにいられないその気持ちもよく分かる。

そして夕方、誤嚥しそうな利用者様の食事介助をして吸引をしようという段取り。

食事介助は介護の方が中心としてやるという習わしらしいのだが、これをやることによってかなり嚥下状態が分かるし、フロアに居るその他の利用者様の様子もよく分かる。

何とかこの時間までに諸々を終わらせてから、この依頼されてもいない仕事をするわけだが、最近は一階にも二階にも三階にも観察したい人が居るし食事介助や吸引したい人が居る。薬のダブルチェックもしたいし・・と思っていると最近17時以降も非常に忙しい。

が、真近で利用者様と接することも出来る貴重な時間。

すると課長がやって来て、「ねえ。他の人は何してんの?」とまたさっきと同じ問いかけ。

いや・・・ですから。それ気にしていると仕事にならないので。

あと、嘆くなかれ課長さん。最近他のナースさんも結構食事介助したり介護の人たちと情報交換したり、凄く意識が変わって来ているのです。

で、仕事が終われば終わったで、それぞれの立場でそれなりに疲れている日々。

皆、独特のブロックや思い込みがあったとしても多分それぞれに一生懸命なのだろう。

*******

仕事の合間に一服をしに行くとよく介護の方と出くわす。

そんな中でごく最近話すようになった方が居るのだが。

初めて話した機会から二回目か三回目のとき、職歴や自分の少年時代の頃の話などをしてくれた。重くもなく軽くもなく。

ただ、よくそんなふうに自分のことを話してくれたなあーと軽く驚いていた。ほんの数分の間に。

いつも一定のテンションで楽しそうに、でも立ち入り過ぎず冗談まじりで利用者さんと会話しつつ介護をこなしている姿を観ていて「あの人のモチベーションってなんだろ?分からないし、多分ずっと知ることもないだろうな。」と思ったことがあった。

それくらい話をしない人だった。

そして少々笑い合うようになったある日、しばしばあるように喫煙所で出くわした。

楽しかった2〜3分だったのだけど。

一緒に鉄の扉を開けて喫煙所を後にしてそれぞれの仕事場へ戻ったときのこと。

私はまたすぐに喫煙所へ行きたくなった。

それで実は自分が、休憩するとき、喫煙するときには、一人で吸いたいタイプだということを思い出した。

ああ、そうか。楽しかったけれど息をはけなかったんだな。

どこか気を使って慌ただしくタバコの火を消したことに気が付いたので、今一度喫煙所に戻ったのが一分としないうちだった。

一人で吸い直そう。

そう思って、屋上の階段の下でタバコに火をつけると、人の気配を感じたので上を見上げると、こちらに背を向けて階段の上の方に座っているその人の後ろ姿が見えた。景色だか空を観つつ、一人でタバコを吸っていた。

あれ?もしかして私と同じ気持ちだったのかな?

さっき同時に出て行ったばかりなのに互いにここに戻ってきているというのが気まずいのだけど、まあ、すぐにばれるので「まさかAさんじゃないよね?」と下から声をかけると笑いながら「あれ。」と言っている。

これで心置きなくそれぞれの場所で一人一服が出来る。上と下で。

数秒の沈黙が流れた。心地良いかも。住み分け、住み分け。(?)

が・・・。

「あがってくれば良いのに。」と背を向けたままの人から声が出た。

数秒考えたのだけど、階段の中盤まで笑いながら登った。タバコに火をつけたままで。

「そうだよ。さぼりじゃないならあがっておいで。」

思わずそこで足を止める。さぼりじゃないならと言われると微妙だなあと思うから。

そして、そのままその場所で吸っていると、またしばらくして「そんな中途半端なところで。」と背中で言う。

それでも動かないでいると「あがってくれば良いのに。」とまた言う。

なのでとうとう同じ場所まで上がって行った。

相手は良い感じで階段に腰掛けているので横に立って続きを吸った。

すると「やっさしいー。」と言う。

何がだろう。あがって来いと言ったから来たんじゃないすっか。

で、缶コーヒーを飲んでいることに気が付いた。あれ?まだ休憩時間だったんだ。

「そうですよ。コーヒー、飲んで良いよ。」

いやいや、私、本来の休憩時間じゃないし。(もっとも本来の休憩時間は忙しくて休めなくて潰れてしまったのだが。)

それにタバコ吸っているだけじゃなく他人のコーヒー飲むって何事ですか。それに、それ、飲みかけやんか・・・と突っ込みどころ満載。

色々思うものの”いいですよ。”と断って違う話を始めた私だったが。

「飲めばいいのに。」とまた言われる。

・・・・・・・。とうとう飲んだ。半分くらい残っている重さの缶を傾けて。

返すわけにも行かず、全部飲んでいい?と訊くしかない。

「いいよ。」

なんかまた不思議な人間関係が始まっているような。

・・・・・・・・。ごちそうさま。じゃあ、これ、捨てておきます。

「いいですよ。こちらで捨てておきますよ。」

ほんの数分の出来事だったのだけど、廊下を歩いているとき、一人で吸った後のように切り替えができていることに気が付いた。

しばらくすると、遠くの方から利用者様に話しかけているその人の声が聞えた。気負わず自然な声だった。
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2017年05月24日

やんちゃ坊主め

朝、多少の余裕を持って出勤するものの、根っこがぐずでぼーーっとするのが得意。

なので油断するとすぐギリギリの時間になってしまう。

そんな学習能力ゼロの私はタイムカードを押してロッカーで着替え医務課にあがるまではバタバタしている。

これ、良くないのよね。途中で誰かに呼び止められて夜の間の報告をされることがあるので。

いつものように更衣室に飛び込んで自分のロッカーに手をかけようとしたその時、どこにも自分の名前がないことに気が付く。

よく個人名が連なる間に”派遣”とか”研修生”というラベルが貼ってあるのだけど、突然研修生と書かれてある。

あれ?!と一瞬焦る。大分前から課長に皆が着替えている一階じゃなくて医務課にロッカーを設けてあげるよと言われていたことも思い出す。

個人デスクとかロッカーとか要らないんです、ほんと・・・と答えていた。だってIさんたちと少し喋れる場所だから。
でも、もしかして既に移されてしまったのかな?

それにカードもない!菊池はどこ行った?金子は?小川は?

一瞬の間に色んなことを思いめぐらせたものの、すぐに今出て来たばかりの事務所に駆け戻り「課長さん!私のロッカーはっ?!」と慌てふためいて言う。

すると課長が「いいや。私も施設長も昨日出勤していたからそんなことはないはず。」と言ってロッカーに一緒に走ってくれた。(この朝の忙しい時間帯に申し訳ない。)

で、課長と一緒に改めてロッカーを観て冷静になった。

この名札、マグネットなのか。私の名前の上に誰かがいたずらして研修生というネームが貼ってあり、プロ野球カードは細長いロッカーのずっと上の方に貼ってあった。

課長が「やられたね。」と爆笑している。

そこへIさんとHさんが出勤して来たので「いたずらした?」と訊いたのだが「尾崎さんにやらないよ。そういうことをあなたにするのはもう一人のちっちゃい方でしょ。」と。

あいつか!

初期の印象から、そして今でも基本クールでシニカルなkyone。

それなのに私にはこういう小学生みたいなことをする。

午後になって見かけたので「私に何かしませんでしたか?」と低い声で威嚇すると、肩をすくめて半分怯えているのだけど半分「ぎゃはは」と笑っている。

そして、さらに学習能力のない私は今朝もギリギリで。

昨日さんざん言って聞かせたので安心しきってロッカーを開けようとしたのだが。

本来手を差し込んで引っ張るべき取手の上にプロ野球カードが二枚貼られている。あと、他にも妙なことをされていたのだけど、もう忘れてしまった。

あんだけ怒っている私から引いていたのにまだやるか。

頼むから私の神聖なカードたちに触らないでくれ。全部Iさんから貰ったものばかりなんだから。(考えてみたらこのカードが一番いじられている)

今日もそんなことをこんこんとすれ違う度に言いふくめた。

そして夕方、一階の仕事をしていたら他の介護スタッフに彼女がやつれた顔で告げている。「もう、どう頑張っても終わりそうにないからさ。一旦子供を保育園に迎えに行ってそれからまたここに戻って来る。」と。

そう言って彼女がささっといなくなったばかりの頃、残っている介護職の女の子に「母ちゃんなんだよなあ、あれで。」と言った。

そう言いたくなるのはどう見ても20代前半の若い子にしか観えないからだ。小学高学年の上の子がいるようには見えないし、第一出産したように見えない。

すると立ち去ったはずの彼女がうわーーっと戻って来て「母さんだよ!」と言うので今度はこちらが怯えつつ笑った。
何で私の言葉だけは許さないし聞き逃さないかな!

幾人かの人々が「勤め始めてくれてから介護と看護の関係が良くなったんですよ。」と言ってくれているのだが。

私は単にいじめられているだけのような気がしてならないっす。

でも、なんか本気で腹を抱えて笑っている大人を目にすると・・・何だか「まあ、いいか。」と思えてしまう。

何故ならこういう時以外は皆くそ真面目過ぎるほどだから。

でも私でうさを晴らすのは止めろ。どういうつもりなんだ。

そういうと大抵「ピンポンダッシュの気分。」と返って来る。

私が子供なもんだから関わる人の子供を引き出してしまうらしい。

あんなにくそ真面目でクールな子に対してさえ。

でも、仕事をちゃんとやるので結局文句なし。
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2017年05月19日

どうしたら失くさないでいられるのだろう

精神的にハードなことと言うのは身体的にも疲れるもので。

そんなヒプノトレの終了後Mさんに足つぼと全身のほぐしを施術していただけた。まあ、毎度申し訳ないことですが。

これでしばらく元気でいられるのよね。自分では無理な部分もリラックス。

「すみませんね。研究しているから独り言が多くなっちゃって。」と終了後仰るのだけど、大丈夫。研究ってもレベル高いので信頼しきって寝入っていられたから。

*****

そんな至福の夜の翌日、ホームで派遣さんと二人きり。他にもストレス要素が色んな意味であり。まあ、もちろん派遣さんも大変ハードなことに間違いなかった。

うまく行かないことがあると私はしょげるし立ち直りが遅い。

特に自分が関わったことで不手際があって、例えそれが「私じゃないのに。」的なことでも。

それは大人の世界ではやはり「私のせいです。すみません。」と言うしかない出来事なのである。そうじゃない人もいるけれど、私はそこまでタフじゃない。

やることはやるものの、気持ちはどよーんと落ち込む。どうしよ。

今日はIさんが居ないからキャッチボールで発散も出来ないし。←Iさんに頼るのもどうかと思うが。

それでも何とか一日を終えて、ロッカーに着替えに行ったときに驚いた。

いつの間にかまる選手のカードが貼ってある。ので、菊池とまるのカードが一枚づつ燦然と輝いているわけだ。

????ま、まるも好きだけども。誰にも話したことはないはず。

回想する。

先日、私はIさんに貰った菊池のカードを失くしてしまった。

しかも、一番最初にロッカーに貼ってくれていたとき、わー!と喜んだあとに、ずうずうしくも「貼っておくのと持ち歩くのとが要るからもう一枚頂戴。」と宣うたのだ。

「菊池は滅多に当たらないんだよ。」

そう言われて、それもそうですよね、ごめんなさいと言っていたのだが、それから一週間と経たないうちに別の菊池のカードがロッカーに貼ってあったのでビックリした。

あまりに嬉しくてIさんがいつかくれた愛用のギターのピックと菊池のカードをくっつけていつもポケットに入れていた。もう一枚はロッカーに貼っておいて朝元気を貰っていた。

ところが、そのポケットに入れて持ち歩いていた方のカードを失くしたと気が付いたのが先週末。

百歩譲って菊池のカードを我慢するとしてもIさんの愛用のピックもくっつけていたのに。

それで数日前に「実は・・・」とIさんに打ち明けた。

「カードなんてまた当てればいいさ。」

いや。。。でも、ピックが。。。。世界に一つのピックが・・・・。

「ふうん。ピックなんていくらでもあるよ。」

いや・・・と食い下がろうとしたのだけど、それ以上は止めておいた。

Iさんに「ふうん。あ、そう。」と冷静に言われてその会話は終わった。

その後に、あのキャッチボール中に部外者の男子が参加した折のIさん座り込み&不機嫌事件。

もちろん休日である昨日も会っていないのだが、夜、ヤクルト戦を観ていたところ、ふとIさんも観ているかな?と思った。実に気持ちの良い試合だったから。

なので初めて自分からラインして「良い試合ですね。」と送信したのだが返信なし。

やっぱりねー・・・と思っていたら数時間後の深夜に「よし君がやりましたね。ウトウトしちゃってた。」と返事(?)が来た。

ああ、よしのりがやってくれた。で、ライン来たときはウトウトしてたってことかな?言葉が少ないのはお互い様だけど。

そして忙しい今日を終えてヘトヘトでロッカーに辿り着くと、そこにとある選手のカードが貼ってある。丸だった。

あれ?今朝着替えるときは無かったよな。勘違い?気が付かなかっただけ?

いいや、違う。今朝、金子と菊池のカードがいつもように貼ってあって、もう一枚の菊池を失くしたから、誰かに何かのエッセンスを貰おうと思って金子のカードをポケットに入れて仕事しようと決めたのだ。で、金子を一枚はがした。なので、ここに残っていたのは菊池のみ。

(あ、そうだ、そうだ。金子も大好きだと言った数日後に金子のカードが貼ってあったんだ。あの時もさりげなく言葉を拾ってくれて、何年も前の金子のカードを家から探してまで持って来てくれたんだ。)

でも、おかしい。Iさん、今日は休みだよな。もう一つの仕事へ行っているはず。。。が、確かに朝着替えるときは無かったような。

一瞬のうちに混乱して、数秒後に冷静になってよく観てみたら、そのカードにギターのピックがくっつけてあった。

この挟み方。私がやっていた挟み方。一度だけIさんに見せたことがあるけれど。同じ挟み方がしてある。マグネットクリップにカードとピックを挟んで。

来たのかな?それなら声かけてくれたらいいのに。

それより何より、何ておしゃれなやつ!と優しいやつ!と思った。

「あ、そう。」って冷たく聞こえるくらいの返事だったのに。

以上の頭の中のグルグルの最中、私の口から出ている声というのは「え?な、なに?え?いや・・・うん、そうだよね。なかった。え?じゃあ。。。」という短音ばかり。

丁度私の近くのロッカーで着替えていたK姉さんが「どうしたの?」と言うので、いや、実はこれこれしかじかで・・・と私の不穏の理由を話した。

話している間に「優しいなあ。いつも黙っておしゃれなことするなあ。」と驚きの理由がまとまって来た私。

するとK姉さんが「なんかさあ。。。それって女の人に出来る優しさじゃないよね。」と言う。

それは今回のことだけでなく今までのIさんの色々な言動と人となりを総合して仰っているわけだが。

私は「かと言って、男にも出来ないよね。」と。

阿佐ヶ谷から自転車でここまで来たのかな。それとも私がぼけてて本当に朝気が付かなかっただけなのかな。

それでも嬉しいけれど。

多分だけど、菊池も金子も持っていなくて丸を選んでくれて、ピックも使いこなしたふうには見えない比較的新しいものだけど、せめて。。。と思って貼ってくれたのかな。

そんなことをいっぱい思いつつも帰りのバスの中で私がライン出来た一言は「カード、ありがとう。嬉しい。」だけだった。

ほどなくスタンプが一つだけ返信されて来て、それは鼻をほじっているパンダのアニメーションだった。

・・・・。何、それ。

でも、Iさんらしい。

ちょっと今日一日のことやこれまでの生き方について考える。つまらない感情のゲームばかりして来た自分のことを。

押し付けがましいことをしたり、言い訳ばかりして来た自分のことを。

”そんなにいっぱい喋らなくたってちゃんと聞いてるよ。”という言葉にされていない言葉を、確かに聴いた日。
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2017年05月04日

負けず嫌いな物語

そして屋上へと続くその階段で一連の出来事をIさんに話した後、Hさんだけがその場を離れてIさんと二人きりになった。

タバコをふかしているIさん前にして「やってみれば?もしかしたら、もしかする。ああー、でも、やっぱり万が一にでもIさんが負けるところを私個人としては見たくない。止めよう。」と独り言のようなことをつぶやいた。

考えて観れば二人とも独り言のように話すタイプなのだよな。熱くなったとき以外は。

しゃがみ込んで二人ともぼそぼそ話しているのでよく他の人にじっと見られる。

するとIさんが「じゃ、やってみようかな。」と言う。

うん、えーと多分今まだ二階にいると思う。記録している頃なんじゃないかな。

そう、いつもお見掛けするMちゃんは、しゅんしゅん走っていて、あんなに若くて快活な子がよくこんな地獄のような仕事を続けているなーと色んな人の話題に上っていた。しかも、若くて素直で大人しいというだけで同じ介護職の人たちにすら色んな仕事を押し付けられそう。

「よし、じゃ、行こう。」とIさんが立ち上がるので二人で二階へ降りてみると丁度リュックをしょったMちゃんが帰るところだった。

ステーションから出て来た彼女が私たちに気づくや否や私が「Iさんを連れて来たよ。」と言うと「ええー?まじですか。」と言いつつもステーションの中に戻ってテーブルにつくので笑った。はやっ。

Iさんと二人で来たことについて何の疑問も持っていない様子で「なるほど」と言わんばかりにスタンバイした。

後で思い出したのだけど、その前に「Iさんと仲良いですね。ほんとに仲良いですね。」としきりにMちゃんが言っていたからかな。

ところがIさんが「なんだよ。座ってやるのかよ。」と言うのでMちゃんも私も「え?」となる。

立ってやるの?

私、最強という自他共に認めているエピソードは聴いて来たけれど、やっているところを見たことがなかった。

Iさんが「あいつとはやったことないけど・・・あいつはこえーなー、負けるかも。」と言った相手は唯一一人だけ。とある外国人の介護職員の女の子だけ。

他は皆Iさんに負けている。

何せおっさんにも勝っちゃう人だから。

で、立ってやるものなの?

「そうだよ。本気だもん。」と言うのだけど、あいかわらず、すずしー顔をしている。まるでやる気も殺気も感じられない。

ただ、Iさんが両足を開いて腕だけをテーブルにつけるポーズを取ると、何と、そんなイメージじゃないMちゃんもすぐさま全く同じポーズになって握りあった。

Mちゃんは、それまでは「いやあ、なんでこんなことになっちゃったんだろ?」とおどおどしていたのに、握り合った途端、今まで見たことのない表情になった。眉間にしわが寄って、口を一文字に結び、出た言葉が「ぜってぇー、勝ってやる!」だったので、私はビックリ仰天した。

歯を食いしばって「ぜってー勝ってやる。ぜってー、負けねえ!」を三回ほど繰り返していた。

こんな一面があったなんて。まるで「おめーだけには負けねえ。」と後に続きそうな勢い。Iさんに向かってこんなふうになる子がいるなんて。

そしてレディーゴーなのだが、結果的にIさんが勝った。ほとんど瞬殺だった。

しかし、Iさんが「結構強いよ。(Mちゃんは)いけてる。」と感心している。というか、勝ち負けに関わらず、最初の最初からIさんの表情は変わらず、敵意を見せることもなかったんだよな、振り返ってみれば。

するとMちゃんが「(負けたのは)すぽっちゃ行って筋肉痛だからですよ。」と言うので笑いをこらえた私。

そう、笑いをこらえながら、今度は左手でもう一戦やってみれば?と私が言うと二人ともすぐに左手を出した。

またMちゃんの「ぜってー勝ってやる!」という決意の言葉とオオカミみたいな表情。Iさんは何の感情も見てとれないが、先ほどと同じく両足を開いてテーブルに上体を倒して腕を固定した。

すると、なんと、左手だとMちゃんが勝ったので、Iさん「おおー、久しぶりに負けた。凄い。強い。左はあなたの勝ち。」と。

「引き分けということですか?!」とたちまち満面の笑顔になって飛び上がって喜んでガッツポーズを取るMちゃん。

しかし、言ってはなんだけど、二人とも外見だけみると、別段体育会系なわけでも筋肉が見るからについているわけでもない。普通の女の子の範囲内なんだけどな。

「何度も言うけど、私は今日、筋肉痛ですからね。ほんとはもっと強いですよ。」とMちゃん。

「なーに、負けてやったんだよ。」と笑うIさん。

その頃には、かなり多くの人、特に男性職員のギャラリーが見ていた。ええ、少々遠巻きに。

目と口を開いて呆然として観ていた人もいたし、ゲラゲラ笑っている人もいたのだけど、いずれもビックリしたのだろう。なかなか無い光景だもの。

いや、なかなかじゃないよね。絶対無いよね。こんな固い職場で。

後程、Iさんと二人になったとき、「いやあ、Mちゃん、頼もしいね。見た?”ぜってー勝ってやる!”の時の表情。」としみじみ言ったところ、Iさんも少し笑って「いやあ、良いね。元気がある女子が多くて良いね。負けず嫌いは面白いよ。」と言っていた。

その後階段で二人がすれ違った際「またやろうね。」とIさんが例のつぶやくような声音で話しかけたとき「はい!」と返事が返って来ていた。

それにしても、IさんもMちゃんも、色んな人に見られていたから余計恐れられるようになっちゃったね、こんな強いし、あそこであんなことやるんだもんね。

そう言って思い出し笑いしていた私に、またしてもIさんが静かーな口調で言う。

「違うよ。皆ちゃんと分かってるよ。」

何を?

「あなたが操って勝負させたんだよ。しかも、右も左も。誰が一番怖いか?って話。まったく。」

・・・・・・・・。ガーン。そうだったのか。そんなつもりはなかったのに。これ、無意識の支配か。

しかも、何となくいつも派手にやっているような。

ただ、Iさんが少し笑って付け加えた。

「でも、楽しかったね。ほんとに、皆、元気が良くて頼もしい。気持ちが良いよ。」と。

そんな人々・・・(というか、全員ではないか。これ、特殊なケースか)に介護されている方々のオムツは日々綺麗ーーにずれなくぴっちりとあてられている。

そして多くの人が元気にもりもり食べて暮らしている。褥瘡が発生したとしても、この大所帯なのにも関わらずせいぜい一人が二人。しかも今まで見たことがない短いペースで治る。

お風呂ではピカピカに。

あのモチベーションやパワーってどこから来るのだろう。

まるであの時腕相撲をしていた二人のように、時には本気でキャッチボールやバッティングするかのように、真剣に利用者様のあれこれを考えている様子を観ては、半端ないなあと思う日々だった。

出来ることならば、腕力では負けるけれど、そういった人々の日々の仕事や心を裏切らない看護が出来たら良いなと思う。
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2017年05月03日

間違ってますよ

出会い立ての頃はつつましく可愛く敬語で話しかけていたKちゃんが今やすれ違い様に「元ヤンですよね。」と言って来るので「ちげーよ。ってか、仕事中に何それ?!」と反応したことがあり。

彼女と仲が良い介護仲間の一人である男の子に「ひでーなー、Kちゃん。こんなことを唐突に言って来るんだよ。」と共感を求めたところ「元ヤン?そんなの皆思ってますよ。何でわざわざ口に出すんですかね?」と冷静に言われたので絶句。

ひどっ!ふざけるな!真面目で大人しい子供だったかも知れないじゃないか!見たんか?そもそもあなたに至ってはその頃生まれてもないくせに!

しかし、その後会う人会う人に「●●ちゃんもそうだって言ってましたよ。違いないだって。」とか言われていてげんなり。

で、元ヤン、もといヤンキーに何故反応してしまうのか?ということを考えてみたら、自分の中のヤンキーという定義が、仲間とつるむことで気が大きくなっている人たちということになっていたからだと気が付いた。

そうすると、皆一緒がお好きな多くの普通と呼ばれている人たちの方がよっぽどヤンキーじゃないか。

「ああ、なるほど。じゃ、一匹オオカミなんですね。」

オオカミをつけなくていい!

そもそもこんなに怖がられなくて突っ込みをいれまくられたり絡まれたり馬鹿にされるヤンキーがどこにいますか。

「いいや、怖いですよ。」と言う人、皆の顔が本気で笑っている。

もうあんまり反応しないでおこう。嫌だって言ってるのにどんどん皆を調子に乗せてしまうようだから。

*****

そんなことを思った後、一つ下のフロアで普通に仕事をしていた。とある利用者さんの貼るタイプの薬剤を交換してあげていたら、Mちゃんがめっちゃ至近距離に来た。座っている利用者さんを挟んで、ほとんど顔すれすれに。

何?とビックリしたのは、これまでさほど話したこともない娘さんだったからだ。

体系はスポーツやってました!という感じのスレンダーな子なのだけど、無駄口叩かずいつも真面目に仕事をしている人。でも、どこか明るくて快活。

その仕事以外はほとんど喋ったことのないMさんが顔を近づけて来たかと思ったら「昨日、スポッチャ行って来てめっちゃ筋肉痛なんですよ。」と言う。

あ、ああ、そうなん。(自分のことを話して来るのって珍しいなあ。)

で、にやりと笑って「で、そこで握力を測ったら、68もあったんですよ。」と得意そうに言う。

・・・・・・・・。何故に今?で、でも凄いね。68って。多分私なんて30も行かない。でも、何で今?

突っ込みどころ満載なのだけど、後から「あれ?威嚇されたのか。」と思った。お外の世界でもこのホームでも頻繁にあることだから。

しかし、あんな大人しい子にまで何故威嚇されるのか。

その階の介護ステーションに立ち寄るとMちゃんが椅子に座って、せっせっと書類を書いていたのだが、思わず斜め前に座って「どれ。68の感触だけでも味合わせて貰って良いっすか?どうせ負けるけど。」と腕相撲の姿勢で腕を出すと私の二倍くらいある筋肉の腕が出て来た。

それでも細い。痩せているというよりはしまっているという感じ。私が貧弱するぎるのだ。

それで腕相撲をしたら、私の外観によって激しく油断していたせいか、私が勝った。

「え?!何?あーー、そうかあーー。やっぱりな。ずっと前利用者さんを二人で抱えたときにも『あれ?』って思ったんですよ。ああ、そうかー。ちっ!もう一回!」

え?もう一回?

なんでだよと思ったのだけど二回目は瞬殺されて私の負け。

はいはい、わかりました。あなたは強いです。

そうして立ち去ってしばらくした後の休憩時間。

喫煙所でIさんと一緒になったので、握力68自慢事件と腕相撲事件のことを話した。まさかのIさんの強敵がいましたよと。

するとIさんと隣にいたHさんも『Mさんって、あのMさん?!あのおとなしい?』と何度も訊き返して来る。

そりゃ無理もないんだわ。その一連の言動が全然イメージじゃないから。

何で私、皆に威嚇されるのかしら。元ヤンだと誤解されてるから挑戦して来るのかな?

するとIさんがマジな顔で「・・・・・。誤解?」と言う。

・・・・・・・。もう良いです。皆、いくら言っても分からないんだから。

そしてその後、事態はちょっと面白い展開になった。

ここの女子はほんとに皆負けず嫌いだなあーと改めて思った出来事が。

でも、長くなったのでまた今度。
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2017年04月29日

またね

2月あたりまで一緒に働いていたナースさんが居て、今その方は有料の老人ホームで頑張っていらっしゃるとのこと。

その方が退職する当日に別フロアーの介護の女性と栄養士さんと四人で飲んだ夜があった。

てっきり送別会的な心持ちで行ったのだけどYナースさんとはあまり話ができず。

と言うのも各部署色々なストレスが溜まっているせいなのだろう。特に介護側のSちゃんが。

それからずいぶん長い月日が流れた気がしたけれど、そうでもないのか。

二か月くらい前にSさんが居るフロアーに降りて仕事をしていると突然「何?」と言われた。何って何?・・・・。

「あ、さては溜まって来たんでしょ。飲みに行きたいんでしょ?」

いや・・・私はお酒は好きだけど、好きだからこそ、飲み会は溜まっているものを発散する場所にしたくないのよね。というよりも、第一溜め込まないし。

「Yちゃんにも連絡しておくよ。」

あ、Yさんには会いたいな、確かに。

「いつにする?ライン、交換しよう。」

ああ・・・じゃあ、来月の勤務表が出来てから皆の休みの前の日が一致するところを探しますか?と提案してその場は終わった。

で、4月に入ってからも相変わらずバタバタしていた。

顔を合わせると「尾崎ちゃん・・・、ライン。早く都合の良い日を教えて。」と通りすがりに声かけ。

ああ、そうだった!とその時は思うのだけど、またしても忙殺されていて、とうとう3プッシュ、4プッシュとさせてしまい、とうとう先日「尾崎ちゃん!もう4月が終わっちゃうよ!」と強めに言われた。

ちゃん付けで呼ぶ人ってこの施設ではこの人だけだわ。しかし。
多分、年下だと思われているんだろうなあ。

「今日こそラインちょうだい。」

で、ですよね。と答える。

ほんと、まじで会いたいんだけど、何、この忙しさ。

しかし、とうとう今夜叶った。

栄養士さんもYちゃんもとてもユニークで良い人。好きな人。

多分皆世界観が違うけど。

遠くの駅でも会う価値あり。

栄養士さんとYさんにはまた会おうねと、そしてSちゃんにはまた明日ねと言って駅で別れた。

思うに、私は話が合う合わないにこだわり過ぎるところがあるみたいだ。

皆それぞれだから、互いに言っていることの意味が通じ合えないこともあるだろうに、つい「どう言ったら噛みあうかな?どう聴いたら理解出来るかな?」ってなことを思うらしい。

でも、最近は、全然違うことを楽しんでいる。

これで荻窪も4〜5回行ったな。Iさんとのバッティングセンターの夜も含まれる。

ところで私の伝達ミスで翌日も仕事の日が飲み会になってしまった。

明日きついだろうなーとこれを打っている夜。

はよ、寝よ。
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2017年04月25日

スモーク&ウォーター

ある日曜日、聞きなれないメロディーコールがどこからか聞こえていて、最初は下のフロアからの音かと思っていた。

よく吹き抜けから階下のナースコールが聞えて来て混同してしまうからだ。

ホームで言うナースコールが呼ぶのはナースではなく、ほとんどが介護職員の方々を呼んでいる音だ。トイレが終わったよとか、椅子から立ち上がったよとか、その他諸々。

何十年もナースコールに反応して来た身としては落ち着かないのだが、それらを無視するという状況にある。何故ならば行っても役に立たないことが多いし、長いこと介護している人々こそが熟知している一人一人の身体の癖や習慣があるから。

でも、その音を聴いたとき、何故だか行かなくちゃ。どこから鳴っているのか見つけなくちゃ。と、そういう思いにかられてフロア中を探し回った。

私が探し出すと他のナースさんたちも探し始めた。

そしてほどなくどこから鳴っているのかが分かった。

第一発見者は私。何せ探そうと思って動き回ったから。

”あの人が探しているから一緒に探さなきゃ”じゃないわけで。

すると、少々体格の良い方がトイレが終わった後狭い壁と壁の間の床に座り込んでいた。

あ、大変だ!と動揺したものの、すぐには手が出ない。下半身が著しく浮腫んでいる上に衣服を身に着けていない。それに狭い。

どうやったら、痛みを感じさせずに持ち上げられるのだろう?助けられるのだろう?と躊躇したのが数秒間。

意を決して抱え上げようと手を出そうとしたその時、私とその人の間にスッと腕が入って来た。

え?

一瞬のことだったけれど、どうやら私とそうそう変わらない身長の女性の影。

入浴係のIさんがたまたまそこを通りかかったらしいのだけど、無言で腕を出し、片手でその人を持ち上げて便器に戻した。

片手?しかも黙って。あと、早すぎる。

かなり汚染しているのに手袋一つせず、散歩の途中で通りかかったからついでにと言う雰囲気で終始無言で。

あ、ありがとう。。。と言うのと同時にビックリした。

その行動と動きがほとんど本能的で、全く予備動作もなく、全く考えることもなく自然だったから。

よく傍から見て「動じない」とか「何でも速い。」と言われて来たけれど、その時の自分が非常に考え過ぎるのろまな生き物のように思えた。

しかも、何、あの力。

そのまま去って行こうとするのはその後バイタルを測るのも何もかも、”それは自分の仕事じゃない”と分かっているからなのだろうけど、何事もなかったようにスタスタ行ってしまうので「ありがとう!あの!ちょっと!ありがとう!」と声を大にする。

わずかに片手があがって、うんうんと頷くのが見えた。

*******

昼休み、少々仕事が食い込んだ。いつもよりちょっと遅めに屋上へ行く。喫煙所兼待ち合わせ場所。

タバコをくゆらせていたIさんと一階に降りる、グローブを持って。

今日はK姉さんもいるし、何と、外でAちゃんが待っていた。ブラックのグローブをつけて。

あ。。。ほんとに持って来たんだ。離婚相手のところから。

わざわざ取りに行ったんだ、本当だったんだ。面白い子だなあ。

どうでも良いのだけど、初めてAちゃんが参加した前回同様、ボールがとんでもないところへ行く。

前回も「もう!Aちゃんのせいでキャッチボール禁止になっちゃうじゃんか!」と怒っていたのだけど、今回はこれまた到底取れない場所にボールが行ってしまった。

全員「・・・・・・・。」。

まあ、私たちも久しぶりにやったときはそんなもんだったし。。。そして今は短い昼休みだからボール探しに時間を割いている暇はない。だから、後程取りに行くとして・・・・。

軟球一個と硬球一個しか持っていない私。要するにこれが私たち四人が保持するボールの全て。

その軟球が取れなくなってしまったので自ずと硬球でやることに。

さすがにAちゃんも慎重になった。

それは良いのだけど、剛速球のK姉さんに向かってIさんがもっと凄い剛速球を投げる。

K姉さんが取る度に「いったーーい!」とグローブをはずして掌を確認している。遠目に見ても分かるほど、真っ赤になっている。

その様子がおかしくて・・・というか、凄くて。

しかも、Iさんが事務の要のK姉さんにボールを投げつける際「午後、パソコン使えないようにしてやる。」とぼそりと言いつつニヤッと笑いつつ投げている。

「なにーー?」と爆笑しつつ、そして痛がりつつキャッチするK姉さん。

でも、Iさんは私に投げるときには、気がつかれない程度に弱く優しく投げている。

痛くない。そして自然に投げ分けているのであからさまなひいきには見えない。

それが少し嬉しいのだけど、かなり悔しい。

道を歩くときにも、Iさんは絶対に私を内側に入れて自分は車道側を歩く。多分無意識なのだろうけど、場所をずれようとしても自然に内側に格納されてしまう。

何だか弱きものとして扱われているのが悔しい。

けれども、おそらくは客観的、そして無意識に判断して黙って施される優しさに未だ度々ビックリする日々。

ロッカーに菊池のカードを貼ってくれていたのが嬉しかったので、私も引き当てたIさんが若干好きな選手を貼ろうとしていたら、横から「おはようございます。」と現れるので貼る前に見つかってしまいロッカーに手を伸ばした姿で硬直。

ほんとに、トイレで利用者さんを抱えようとした時と同様に横殴りのように現れる。

あ、う、これ、今貼ろうと思って。。。という一日の始まりだったのが、それから9時間後だか10時間後、帰りの電車の中でIさんからライン。

「カード、ありがとうございますね。」

何か重要なことでもない限りラインなんて一切送らないだろうなと、いかにもそう見える人なのだけど。

富士山のビューと言い、今回の目まぐるしい一日のほんの始まりの一つの出来事への「ありがとう」と言い、いちいち心に染みる。

本当に全てが異質なのだなあと思う。

その違いを大切にしたい。

ので、自分のことを頑張ろう。

あちらの世界とこちらの世界のキャッチボールが対等に出来るように。

********

その人は無表情で、いつも静かにつぶやきながら私を笑わせる。

まるで腕の振りだけ見ると軽く投げているようにしか見えないボールが伸びて剛速球になるかのように。

一方、Iさんほどではないが冷静かつ表情少なきAちゃんも、逆に表情豊かで声が大きいK姉さんも「楽しい!尾崎さん、面白い!」と言ってくれる。(どこが面白いのかはサッパリ分からないけど。)

あとは、少なからず言葉に出していたり、はたまた、人づてに「あなたと接してると楽しいって言ってたよ。」と伝わって来たり。

が、Iさんは楽しいのか?

「はい、はい。」と仕方なく付き合っているわけではないのか?

そんなことをふと思っていたとき、横でZippoがかちんと鳴った。

水を飲みつつタバコの煙を吐きつつ、Iさんが言った。

あたかも巻きタバコの煙が静かに吐き出されるのと同じテンションで。あるいは水を飲むかのようにあたりまえのように。

「バーベキューも行かなきゃいけませんね。」

・・・・・・・・・。

今、二人しか居ないよね?

行かなきゃいけないって・・・・・。あと、ほんとに行きたいのか・・・?

突っ込みどころ満載の表情とテンションとセリフだったが、絶句したまま、こちらも無言でうんうんと頷くばかりだった。

とりあえず、こちらも、水と煙。
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