2017年06月03日

ナチュラル

重篤な皮膚トラブルが相次ぐ方を受診に連れて行った。

受診の付き添いなんて本当に久しぶり。

通常リーダーだと付き添えない。ただでさえ派遣さんがその役目を担うし、そうでなくとも大御所様たちが率先して「私が行きます。」と強く仰ることが多い。ああ、派遣の頃、あれはあれで楽しかったなあ。基本、総括的なことより外回りが好きなんだなとつくづく思う。

私がここに来た頃から繰り返されているその方の皮膚トラブルにKちゃんという介護の子と頭を悩ませて色々な方法を試みて来たが優秀な皮膚科医のコメントを聴く度に「そうか。。。生まれつき脆弱なのか。そりゃ、私たちの知恵ではどうしようもないはずだ。」と改めて感じる。かと言って決してあきらめないし出来ることはやっていくけれど。

そんな折、その方の入浴後の処置のため風呂場に降りた週初め。

私に「Aさんがあがりました。処置お願いします。」と電話をかけたIちゃんと、ストレッチャーの上でまだ裸でいるその方が何やら楽しそうにお話ししている。

で、私の姿を見るなりIちゃんが「Aさんも野球好きなんだって。ヤクルトファンなんだって♪」とご機嫌な調子で言う。

病状故暗い表情が多かったその方が笑顔になっている。

Iちゃん、そんなことまでこの方から引き出したんだなあ。それに意外だよなあ、Aさんがねえ。

ぼそぼそと何の気負いも感じられないいつもの調子で自然に相手に話させるんだなあ。

周りも自ずと注目していた光景だった。

そして今日、やはり処置のために呼ばれて降りて行ったら、あの時とまったく同じ配置、同じ光景だったのだが。

Iちゃんが私の姿を見るなり「ほら、噂をすれば来たよ。」とストレッチャーの上のAさんに言っている。

何々?と言うと、今度はAさんの方が答える。「あなたが好きな選手、名前なんでしたっけ?ほら、皮膚科に行く途中に話してくれていた・・・」

あ、金子です、金子。

「ああ、そうだったわ!もうーーー、すぐ忘れちゃって。病気してから全然野球を観るってことも忘れていたから。。。」

でもね、Aさん。Iちゃんの前で金子の話はしにくいんですよ。先日、ヤクルトを力投でやっつけちゃったから。

「別にいいですよ。」と言うIちゃんだったが、やべ、機嫌悪くなっちゃった。
人前だと敬語になるのだが、この時はそれが余計に機嫌悪さの表れとなっていた。

ふう・・・・。ねえ、Aさん。ほんとにもう、ヤクルトが勝ってくれないと私は困るんです。私自身もヤクルトは好きなんですが、それより何より、実害として、ヤクルトが負け続けるとこの人の笑顔が見れないんですよ。そりゃもう、ずっと!

しかもキャッチボールにも影響を及ぼすんです。

私の好きになり方と全然桁違いでして、この人の右手とヤクルトの勝敗は連動しているんですよ。

そう、先ほどの昼休みも「ちっきしょう。もう、こりゃ病気だ!」と右手をしかりつけて、とうとう休んでしまったほどで。

これがまた可愛いんだけど。

Aさんがケラケラ笑う。

Iちゃんは「家でも母親に『もうTV消してしまえ!この馬鹿者どもが!』って言ってる。」と。

AさんもIちゃんも普段あまりしゃべらないのによくしゃべるなあ。でも、楽しい。周りの視線が気になるけど。これ、普通に奇跡だから。

特にIちゃんに関しては、キャッチボールのとき以外で子供のように喋ってくれることはないので入浴場でも珍しいのだが、ここを離れたらまたそれぞれの仕事して話す暇ないよな。まためっちゃ他人行儀で「お疲れさまです。」と言い合い廊下を一礼してすれ違うんだよな。

そんなことを思っていた夕方、廊下を吸引機を引っ張って歩いていたら、普通に歩いていたIちゃんに出くわした。

で、私に向かって軽く「わっ!」と脅かす仕草をした。

・・・・・・・・・・。Iちゃん。姿、普通に見えていたし。それじゃあ、驚かないし。。。

が、その後、何のリアクションもなく、エレベーターも使わず階段をのしのしと登って行ってしまった。

呆然と見つめてた。ドアが閉まって完全に見えなくなるまで。

・・・・・・・・・・・。何、今の。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あ、そだ。吸引するために降りて来たんだった。

今日は、ヤクルト勝つと良いなあ。(結果、ダメだったけど。)

夕食時、Aさんに金子のカードを見せて解説した。

と、こういう選手なんですよ。

金子も凄いけれど、Aさんも凄いんですよ。○○ホームの金子と呼んで良いですか。

たちまちAさんが笑顔になる。

でも、この笑顔のきっかけは、先ほどドアの向こうに消えて行った人のおかげ。

エラーしたボールを取るために高いを塀をひらりと乗り越えたり、その塀の上から簡単に飛び降りてしまうあの人のおかげ。

誰といてもナチュラルな人。
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2017年05月28日

屋根がない場所で

毎月、最終火曜日の往診日は唯一立ち合えない。

それ故に自分が居なくても困らないように週末あたりからこの日の準備をしておく。居なくても分かるようにセッティングすべく提携先の病院にファックスを送りまくったり資料を用意したり。

この週末のバタバタは何も居ないときに限ったことじゃないのだが、誰でも分かるようにしておくというのが至難の業で。

それをただでさえ忙しい通常業務をこなしつつやるものだから激しく消耗。

それをよく観ている課長もナースなので「いつも思うんだけど、他のナースは何やってんの?」と訊いて来られる。

うーん、困る。ナースだから思うよね、それ、普通に。

それは。。。。いつも観ているので、彼女たちが何やってるのか?どんな様子なのか?が実は分かるのだけど問われれば困るのである。

しかも私よりも付き合いの長い課長はもっと事情を知っているわけで。知っているけど、あえて問わずにいられないその気持ちもよく分かる。

そして夕方、誤嚥しそうな利用者様の食事介助をして吸引をしようという段取り。

食事介助は介護の方が中心としてやるという習わしらしいのだが、これをやることによってかなり嚥下状態が分かるし、フロアに居るその他の利用者様の様子もよく分かる。

何とかこの時間までに諸々を終わらせてから、この依頼されてもいない仕事をするわけだが、最近は一階にも二階にも三階にも観察したい人が居るし食事介助や吸引したい人が居る。薬のダブルチェックもしたいし・・と思っていると最近17時以降も非常に忙しい。

が、真近で利用者様と接することも出来る貴重な時間。

すると課長がやって来て、「ねえ。他の人は何してんの?」とまたさっきと同じ問いかけ。

いや・・・ですから。それ気にしていると仕事にならないので。

あと、嘆くなかれ課長さん。最近他のナースさんも結構食事介助したり介護の人たちと情報交換したり、凄く意識が変わって来ているのです。

で、仕事が終われば終わったで、それぞれの立場でそれなりに疲れている日々。

皆、独特のブロックや思い込みがあったとしても多分それぞれに一生懸命なのだろう。

*******

仕事の合間に一服をしに行くとよく介護の方と出くわす。

そんな中でごく最近話すようになった方が居るのだが。

初めて話した機会から二回目か三回目のとき、職歴や自分の少年時代の頃の話などをしてくれた。重くもなく軽くもなく。

ただ、よくそんなふうに自分のことを話してくれたなあーと軽く驚いていた。ほんの数分の間に。

いつも一定のテンションで楽しそうに、でも立ち入り過ぎず冗談まじりで利用者さんと会話しつつ介護をこなしている姿を観ていて「あの人のモチベーションってなんだろ?分からないし、多分ずっと知ることもないだろうな。」と思ったことがあった。

それくらい話をしない人だった。

そして少々笑い合うようになったある日、しばしばあるように喫煙所で出くわした。

楽しかった2〜3分だったのだけど。

一緒に鉄の扉を開けて喫煙所を後にしてそれぞれの仕事場へ戻ったときのこと。

私はまたすぐに喫煙所へ行きたくなった。

それで実は自分が、休憩するとき、喫煙するときには、一人で吸いたいタイプだということを思い出した。

ああ、そうか。楽しかったけれど息をはけなかったんだな。

どこか気を使って慌ただしくタバコの火を消したことに気が付いたので、今一度喫煙所に戻ったのが一分としないうちだった。

一人で吸い直そう。

そう思って、屋上の階段の下でタバコに火をつけると、人の気配を感じたので上を見上げると、こちらに背を向けて階段の上の方に座っているその人の後ろ姿が見えた。景色だか空を観つつ、一人でタバコを吸っていた。

あれ?もしかして私と同じ気持ちだったのかな?

さっき同時に出て行ったばかりなのに互いにここに戻ってきているというのが気まずいのだけど、まあ、すぐにばれるので「まさかAさんじゃないよね?」と下から声をかけると笑いながら「あれ。」と言っている。

これで心置きなくそれぞれの場所で一人一服が出来る。上と下で。

数秒の沈黙が流れた。心地良いかも。住み分け、住み分け。(?)

が・・・。

「あがってくれば良いのに。」と背を向けたままの人から声が出た。

数秒考えたのだけど、階段の中盤まで笑いながら登った。タバコに火をつけたままで。

「そうだよ。さぼりじゃないならあがっておいで。」

思わずそこで足を止める。さぼりじゃないならと言われると微妙だなあと思うから。

そして、そのままその場所で吸っていると、またしばらくして「そんな中途半端なところで。」と背中で言う。

それでも動かないでいると「あがってくれば良いのに。」とまた言う。

なのでとうとう同じ場所まで上がって行った。

相手は良い感じで階段に腰掛けているので横に立って続きを吸った。

すると「やっさしいー。」と言う。

何がだろう。あがって来いと言ったから来たんじゃないすっか。

で、缶コーヒーを飲んでいることに気が付いた。あれ?まだ休憩時間だったんだ。

「そうですよ。コーヒー、飲んで良いよ。」

いやいや、私、本来の休憩時間じゃないし。(もっとも本来の休憩時間は忙しくて休めなくて潰れてしまったのだが。)

それにタバコ吸っているだけじゃなく他人のコーヒー飲むって何事ですか。それに、それ、飲みかけやんか・・・と突っ込みどころ満載。

色々思うものの”いいですよ。”と断って違う話を始めた私だったが。

「飲めばいいのに。」とまた言われる。

・・・・・・・。とうとう飲んだ。半分くらい残っている重さの缶を傾けて。

返すわけにも行かず、全部飲んでいい?と訊くしかない。

「いいよ。」

なんかまた不思議な人間関係が始まっているような。

・・・・・・・・。ごちそうさま。じゃあ、これ、捨てておきます。

「いいですよ。こちらで捨てておきますよ。」

ほんの数分の出来事だったのだけど、廊下を歩いているとき、一人で吸った後のように切り替えができていることに気が付いた。

しばらくすると、遠くの方から利用者様に話しかけているその人の声が聞えた。気負わず自然な声だった。
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2017年05月24日

やんちゃ坊主め

朝、多少の余裕を持って出勤するものの、根っこがぐずでぼーーっとするのが得意。

なので油断するとすぐギリギリの時間になってしまう。

そんな学習能力ゼロの私はタイムカードを押してロッカーで着替え医務課にあがるまではバタバタしている。

これ、良くないのよね。途中で誰かに呼び止められて夜の間の報告をされることがあるので。

いつものように更衣室に飛び込んで自分のロッカーに手をかけようとしたその時、どこにも自分の名前がないことに気が付く。

よく個人名が連なる間に”派遣”とか”研修生”というラベルが貼ってあるのだけど、突然研修生と書かれてある。

あれ?!と一瞬焦る。大分前から課長に皆が着替えている一階じゃなくて医務課にロッカーを設けてあげるよと言われていたことも思い出す。

個人デスクとかロッカーとか要らないんです、ほんと・・・と答えていた。だってIさんたちと少し喋れる場所だから。
でも、もしかして既に移されてしまったのかな?

それにカードもない!菊池はどこ行った?金子は?小川は?

一瞬の間に色んなことを思いめぐらせたものの、すぐに今出て来たばかりの事務所に駆け戻り「課長さん!私のロッカーはっ?!」と慌てふためいて言う。

すると課長が「いいや。私も施設長も昨日出勤していたからそんなことはないはず。」と言ってロッカーに一緒に走ってくれた。(この朝の忙しい時間帯に申し訳ない。)

で、課長と一緒に改めてロッカーを観て冷静になった。

この名札、マグネットなのか。私の名前の上に誰かがいたずらして研修生というネームが貼ってあり、プロ野球カードは細長いロッカーのずっと上の方に貼ってあった。

課長が「やられたね。」と爆笑している。

そこへIさんとHさんが出勤して来たので「いたずらした?」と訊いたのだが「尾崎さんにやらないよ。そういうことをあなたにするのはもう一人のちっちゃい方でしょ。」と。

あいつか!

初期の印象から、そして今でも基本クールでシニカルなkyone。

それなのに私にはこういう小学生みたいなことをする。

午後になって見かけたので「私に何かしませんでしたか?」と低い声で威嚇すると、肩をすくめて半分怯えているのだけど半分「ぎゃはは」と笑っている。

そして、さらに学習能力のない私は今朝もギリギリで。

昨日さんざん言って聞かせたので安心しきってロッカーを開けようとしたのだが。

本来手を差し込んで引っ張るべき取手の上にプロ野球カードが二枚貼られている。あと、他にも妙なことをされていたのだけど、もう忘れてしまった。

あんだけ怒っている私から引いていたのにまだやるか。

頼むから私の神聖なカードたちに触らないでくれ。全部Iさんから貰ったものばかりなんだから。(考えてみたらこのカードが一番いじられている)

今日もそんなことをこんこんとすれ違う度に言いふくめた。

そして夕方、一階の仕事をしていたら他の介護スタッフに彼女がやつれた顔で告げている。「もう、どう頑張っても終わりそうにないからさ。一旦子供を保育園に迎えに行ってそれからまたここに戻って来る。」と。

そう言って彼女がささっといなくなったばかりの頃、残っている介護職の女の子に「母ちゃんなんだよなあ、あれで。」と言った。

そう言いたくなるのはどう見ても20代前半の若い子にしか観えないからだ。小学高学年の上の子がいるようには見えないし、第一出産したように見えない。

すると立ち去ったはずの彼女がうわーーっと戻って来て「母さんだよ!」と言うので今度はこちらが怯えつつ笑った。
何で私の言葉だけは許さないし聞き逃さないかな!

幾人かの人々が「勤め始めてくれてから介護と看護の関係が良くなったんですよ。」と言ってくれているのだが。

私は単にいじめられているだけのような気がしてならないっす。

でも、なんか本気で腹を抱えて笑っている大人を目にすると・・・何だか「まあ、いいか。」と思えてしまう。

何故ならこういう時以外は皆くそ真面目過ぎるほどだから。

でも私でうさを晴らすのは止めろ。どういうつもりなんだ。

そういうと大抵「ピンポンダッシュの気分。」と返って来る。

私が子供なもんだから関わる人の子供を引き出してしまうらしい。

あんなにくそ真面目でクールな子に対してさえ。

でも、仕事をちゃんとやるので結局文句なし。
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2017年05月19日

どうしたら失くさないでいられるのだろう

精神的にハードなことと言うのは身体的にも疲れるもので。

そんなヒプノトレの終了後Mさんに足つぼと全身のほぐしを施術していただけた。まあ、毎度申し訳ないことですが。

これでしばらく元気でいられるのよね。自分では無理な部分もリラックス。

「すみませんね。研究しているから独り言が多くなっちゃって。」と終了後仰るのだけど、大丈夫。研究ってもレベル高いので信頼しきって寝入っていられたから。

*****

そんな至福の夜の翌日、ホームで派遣さんと二人きり。他にもストレス要素が色んな意味であり。まあ、もちろん派遣さんも大変ハードなことに間違いなかった。

うまく行かないことがあると私はしょげるし立ち直りが遅い。

特に自分が関わったことで不手際があって、例えそれが「私じゃないのに。」的なことでも。

それは大人の世界ではやはり「私のせいです。すみません。」と言うしかない出来事なのである。そうじゃない人もいるけれど、私はそこまでタフじゃない。

やることはやるものの、気持ちはどよーんと落ち込む。どうしよ。

今日はIさんが居ないからキャッチボールで発散も出来ないし。←Iさんに頼るのもどうかと思うが。

それでも何とか一日を終えて、ロッカーに着替えに行ったときに驚いた。

いつの間にかまる選手のカードが貼ってある。ので、菊池とまるのカードが一枚づつ燦然と輝いているわけだ。

????ま、まるも好きだけども。誰にも話したことはないはず。

回想する。

先日、私はIさんに貰った菊池のカードを失くしてしまった。

しかも、一番最初にロッカーに貼ってくれていたとき、わー!と喜んだあとに、ずうずうしくも「貼っておくのと持ち歩くのとが要るからもう一枚頂戴。」と宣うたのだ。

「菊池は滅多に当たらないんだよ。」

そう言われて、それもそうですよね、ごめんなさいと言っていたのだが、それから一週間と経たないうちに別の菊池のカードがロッカーに貼ってあったのでビックリした。

あまりに嬉しくてIさんがいつかくれた愛用のギターのピックと菊池のカードをくっつけていつもポケットに入れていた。もう一枚はロッカーに貼っておいて朝元気を貰っていた。

ところが、そのポケットに入れて持ち歩いていた方のカードを失くしたと気が付いたのが先週末。

百歩譲って菊池のカードを我慢するとしてもIさんの愛用のピックもくっつけていたのに。

それで数日前に「実は・・・」とIさんに打ち明けた。

「カードなんてまた当てればいいさ。」

いや。。。でも、ピックが。。。。世界に一つのピックが・・・・。

「ふうん。ピックなんていくらでもあるよ。」

いや・・・と食い下がろうとしたのだけど、それ以上は止めておいた。

Iさんに「ふうん。あ、そう。」と冷静に言われてその会話は終わった。

その後に、あのキャッチボール中に部外者の男子が参加した折のIさん座り込み&不機嫌事件。

もちろん休日である昨日も会っていないのだが、夜、ヤクルト戦を観ていたところ、ふとIさんも観ているかな?と思った。実に気持ちの良い試合だったから。

なので初めて自分からラインして「良い試合ですね。」と送信したのだが返信なし。

やっぱりねー・・・と思っていたら数時間後の深夜に「よし君がやりましたね。ウトウトしちゃってた。」と返事(?)が来た。

ああ、よしのりがやってくれた。で、ライン来たときはウトウトしてたってことかな?言葉が少ないのはお互い様だけど。

そして忙しい今日を終えてヘトヘトでロッカーに辿り着くと、そこにとある選手のカードが貼ってある。丸だった。

あれ?今朝着替えるときは無かったよな。勘違い?気が付かなかっただけ?

いいや、違う。今朝、金子と菊池のカードがいつもように貼ってあって、もう一枚の菊池を失くしたから、誰かに何かのエッセンスを貰おうと思って金子のカードをポケットに入れて仕事しようと決めたのだ。で、金子を一枚はがした。なので、ここに残っていたのは菊池のみ。

(あ、そうだ、そうだ。金子も大好きだと言った数日後に金子のカードが貼ってあったんだ。あの時もさりげなく言葉を拾ってくれて、何年も前の金子のカードを家から探してまで持って来てくれたんだ。)

でも、おかしい。Iさん、今日は休みだよな。もう一つの仕事へ行っているはず。。。が、確かに朝着替えるときは無かったような。

一瞬のうちに混乱して、数秒後に冷静になってよく観てみたら、そのカードにギターのピックがくっつけてあった。

この挟み方。私がやっていた挟み方。一度だけIさんに見せたことがあるけれど。同じ挟み方がしてある。マグネットクリップにカードとピックを挟んで。

来たのかな?それなら声かけてくれたらいいのに。

それより何より、何ておしゃれなやつ!と優しいやつ!と思った。

「あ、そう。」って冷たく聞こえるくらいの返事だったのに。

以上の頭の中のグルグルの最中、私の口から出ている声というのは「え?な、なに?え?いや・・・うん、そうだよね。なかった。え?じゃあ。。。」という短音ばかり。

丁度私の近くのロッカーで着替えていたK姉さんが「どうしたの?」と言うので、いや、実はこれこれしかじかで・・・と私の不穏の理由を話した。

話している間に「優しいなあ。いつも黙っておしゃれなことするなあ。」と驚きの理由がまとまって来た私。

するとK姉さんが「なんかさあ。。。それって女の人に出来る優しさじゃないよね。」と言う。

それは今回のことだけでなく今までのIさんの色々な言動と人となりを総合して仰っているわけだが。

私は「かと言って、男にも出来ないよね。」と。

阿佐ヶ谷から自転車でここまで来たのかな。それとも私がぼけてて本当に朝気が付かなかっただけなのかな。

それでも嬉しいけれど。

多分だけど、菊池も金子も持っていなくて丸を選んでくれて、ピックも使いこなしたふうには見えない比較的新しいものだけど、せめて。。。と思って貼ってくれたのかな。

そんなことをいっぱい思いつつも帰りのバスの中で私がライン出来た一言は「カード、ありがとう。嬉しい。」だけだった。

ほどなくスタンプが一つだけ返信されて来て、それは鼻をほじっているパンダのアニメーションだった。

・・・・。何、それ。

でも、Iさんらしい。

ちょっと今日一日のことやこれまでの生き方について考える。つまらない感情のゲームばかりして来た自分のことを。

押し付けがましいことをしたり、言い訳ばかりして来た自分のことを。

”そんなにいっぱい喋らなくたってちゃんと聞いてるよ。”という言葉にされていない言葉を、確かに聴いた日。
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2017年05月04日

負けず嫌いな物語

そして屋上へと続くその階段で一連の出来事をIさんに話した後、Hさんだけがその場を離れてIさんと二人きりになった。

タバコをふかしているIさん前にして「やってみれば?もしかしたら、もしかする。ああー、でも、やっぱり万が一にでもIさんが負けるところを私個人としては見たくない。止めよう。」と独り言のようなことをつぶやいた。

考えて観れば二人とも独り言のように話すタイプなのだよな。熱くなったとき以外は。

しゃがみ込んで二人ともぼそぼそ話しているのでよく他の人にじっと見られる。

するとIさんが「じゃ、やってみようかな。」と言う。

うん、えーと多分今まだ二階にいると思う。記録している頃なんじゃないかな。

そう、いつもお見掛けするMちゃんは、しゅんしゅん走っていて、あんなに若くて快活な子がよくこんな地獄のような仕事を続けているなーと色んな人の話題に上っていた。しかも、若くて素直で大人しいというだけで同じ介護職の人たちにすら色んな仕事を押し付けられそう。

「よし、じゃ、行こう。」とIさんが立ち上がるので二人で二階へ降りてみると丁度リュックをしょったMちゃんが帰るところだった。

ステーションから出て来た彼女が私たちに気づくや否や私が「Iさんを連れて来たよ。」と言うと「ええー?まじですか。」と言いつつもステーションの中に戻ってテーブルにつくので笑った。はやっ。

Iさんと二人で来たことについて何の疑問も持っていない様子で「なるほど」と言わんばかりにスタンバイした。

後で思い出したのだけど、その前に「Iさんと仲良いですね。ほんとに仲良いですね。」としきりにMちゃんが言っていたからかな。

ところがIさんが「なんだよ。座ってやるのかよ。」と言うのでMちゃんも私も「え?」となる。

立ってやるの?

私、最強という自他共に認めているエピソードは聴いて来たけれど、やっているところを見たことがなかった。

Iさんが「あいつとはやったことないけど・・・あいつはこえーなー、負けるかも。」と言った相手は唯一一人だけ。とある外国人の介護職員の女の子だけ。

他は皆Iさんに負けている。

何せおっさんにも勝っちゃう人だから。

で、立ってやるものなの?

「そうだよ。本気だもん。」と言うのだけど、あいかわらず、すずしー顔をしている。まるでやる気も殺気も感じられない。

ただ、Iさんが両足を開いて腕だけをテーブルにつけるポーズを取ると、何と、そんなイメージじゃないMちゃんもすぐさま全く同じポーズになって握りあった。

Mちゃんは、それまでは「いやあ、なんでこんなことになっちゃったんだろ?」とおどおどしていたのに、握り合った途端、今まで見たことのない表情になった。眉間にしわが寄って、口を一文字に結び、出た言葉が「ぜってぇー、勝ってやる!」だったので、私はビックリ仰天した。

歯を食いしばって「ぜってー勝ってやる。ぜってー、負けねえ!」を三回ほど繰り返していた。

こんな一面があったなんて。まるで「おめーだけには負けねえ。」と後に続きそうな勢い。Iさんに向かってこんなふうになる子がいるなんて。

そしてレディーゴーなのだが、結果的にIさんが勝った。ほとんど瞬殺だった。

しかし、Iさんが「結構強いよ。(Mちゃんは)いけてる。」と感心している。というか、勝ち負けに関わらず、最初の最初からIさんの表情は変わらず、敵意を見せることもなかったんだよな、振り返ってみれば。

するとMちゃんが「(負けたのは)すぽっちゃ行って筋肉痛だからですよ。」と言うので笑いをこらえた私。

そう、笑いをこらえながら、今度は左手でもう一戦やってみれば?と私が言うと二人ともすぐに左手を出した。

またMちゃんの「ぜってー勝ってやる!」という決意の言葉とオオカミみたいな表情。Iさんは何の感情も見てとれないが、先ほどと同じく両足を開いてテーブルに上体を倒して腕を固定した。

すると、なんと、左手だとMちゃんが勝ったので、Iさん「おおー、久しぶりに負けた。凄い。強い。左はあなたの勝ち。」と。

「引き分けということですか?!」とたちまち満面の笑顔になって飛び上がって喜んでガッツポーズを取るMちゃん。

しかし、言ってはなんだけど、二人とも外見だけみると、別段体育会系なわけでも筋肉が見るからについているわけでもない。普通の女の子の範囲内なんだけどな。

「何度も言うけど、私は今日、筋肉痛ですからね。ほんとはもっと強いですよ。」とMちゃん。

「なーに、負けてやったんだよ。」と笑うIさん。

その頃には、かなり多くの人、特に男性職員のギャラリーが見ていた。ええ、少々遠巻きに。

目と口を開いて呆然として観ていた人もいたし、ゲラゲラ笑っている人もいたのだけど、いずれもビックリしたのだろう。なかなか無い光景だもの。

いや、なかなかじゃないよね。絶対無いよね。こんな固い職場で。

後程、Iさんと二人になったとき、「いやあ、Mちゃん、頼もしいね。見た?”ぜってー勝ってやる!”の時の表情。」としみじみ言ったところ、Iさんも少し笑って「いやあ、良いね。元気がある女子が多くて良いね。負けず嫌いは面白いよ。」と言っていた。

その後階段で二人がすれ違った際「またやろうね。」とIさんが例のつぶやくような声音で話しかけたとき「はい!」と返事が返って来ていた。

それにしても、IさんもMちゃんも、色んな人に見られていたから余計恐れられるようになっちゃったね、こんな強いし、あそこであんなことやるんだもんね。

そう言って思い出し笑いしていた私に、またしてもIさんが静かーな口調で言う。

「違うよ。皆ちゃんと分かってるよ。」

何を?

「あなたが操って勝負させたんだよ。しかも、右も左も。誰が一番怖いか?って話。まったく。」

・・・・・・・・。ガーン。そうだったのか。そんなつもりはなかったのに。これ、無意識の支配か。

しかも、何となくいつも派手にやっているような。

ただ、Iさんが少し笑って付け加えた。

「でも、楽しかったね。ほんとに、皆、元気が良くて頼もしい。気持ちが良いよ。」と。

そんな人々・・・(というか、全員ではないか。これ、特殊なケースか)に介護されている方々のオムツは日々綺麗ーーにずれなくぴっちりとあてられている。

そして多くの人が元気にもりもり食べて暮らしている。褥瘡が発生したとしても、この大所帯なのにも関わらずせいぜい一人が二人。しかも今まで見たことがない短いペースで治る。

お風呂ではピカピカに。

あのモチベーションやパワーってどこから来るのだろう。

まるであの時腕相撲をしていた二人のように、時には本気でキャッチボールやバッティングするかのように、真剣に利用者様のあれこれを考えている様子を観ては、半端ないなあと思う日々だった。

出来ることならば、腕力では負けるけれど、そういった人々の日々の仕事や心を裏切らない看護が出来たら良いなと思う。
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2017年05月03日

間違ってますよ

出会い立ての頃はつつましく可愛く敬語で話しかけていたKちゃんが今やすれ違い様に「元ヤンですよね。」と言って来るので「ちげーよ。ってか、仕事中に何それ?!」と反応したことがあり。

彼女と仲が良い介護仲間の一人である男の子に「ひでーなー、Kちゃん。こんなことを唐突に言って来るんだよ。」と共感を求めたところ「元ヤン?そんなの皆思ってますよ。何でわざわざ口に出すんですかね?」と冷静に言われたので絶句。

ひどっ!ふざけるな!真面目で大人しい子供だったかも知れないじゃないか!見たんか?そもそもあなたに至ってはその頃生まれてもないくせに!

しかし、その後会う人会う人に「●●ちゃんもそうだって言ってましたよ。違いないだって。」とか言われていてげんなり。

で、元ヤン、もといヤンキーに何故反応してしまうのか?ということを考えてみたら、自分の中のヤンキーという定義が、仲間とつるむことで気が大きくなっている人たちということになっていたからだと気が付いた。

そうすると、皆一緒がお好きな多くの普通と呼ばれている人たちの方がよっぽどヤンキーじゃないか。

「ああ、なるほど。じゃ、一匹オオカミなんですね。」

オオカミをつけなくていい!

そもそもこんなに怖がられなくて突っ込みをいれまくられたり絡まれたり馬鹿にされるヤンキーがどこにいますか。

「いいや、怖いですよ。」と言う人、皆の顔が本気で笑っている。

もうあんまり反応しないでおこう。嫌だって言ってるのにどんどん皆を調子に乗せてしまうようだから。

*****

そんなことを思った後、一つ下のフロアで普通に仕事をしていた。とある利用者さんの貼るタイプの薬剤を交換してあげていたら、Mちゃんがめっちゃ至近距離に来た。座っている利用者さんを挟んで、ほとんど顔すれすれに。

何?とビックリしたのは、これまでさほど話したこともない娘さんだったからだ。

体系はスポーツやってました!という感じのスレンダーな子なのだけど、無駄口叩かずいつも真面目に仕事をしている人。でも、どこか明るくて快活。

その仕事以外はほとんど喋ったことのないMさんが顔を近づけて来たかと思ったら「昨日、スポッチャ行って来てめっちゃ筋肉痛なんですよ。」と言う。

あ、ああ、そうなん。(自分のことを話して来るのって珍しいなあ。)

で、にやりと笑って「で、そこで握力を測ったら、68もあったんですよ。」と得意そうに言う。

・・・・・・・・。何故に今?で、でも凄いね。68って。多分私なんて30も行かない。でも、何で今?

突っ込みどころ満載なのだけど、後から「あれ?威嚇されたのか。」と思った。お外の世界でもこのホームでも頻繁にあることだから。

しかし、あんな大人しい子にまで何故威嚇されるのか。

その階の介護ステーションに立ち寄るとMちゃんが椅子に座って、せっせっと書類を書いていたのだが、思わず斜め前に座って「どれ。68の感触だけでも味合わせて貰って良いっすか?どうせ負けるけど。」と腕相撲の姿勢で腕を出すと私の二倍くらいある筋肉の腕が出て来た。

それでも細い。痩せているというよりはしまっているという感じ。私が貧弱するぎるのだ。

それで腕相撲をしたら、私の外観によって激しく油断していたせいか、私が勝った。

「え?!何?あーー、そうかあーー。やっぱりな。ずっと前利用者さんを二人で抱えたときにも『あれ?』って思ったんですよ。ああ、そうかー。ちっ!もう一回!」

え?もう一回?

なんでだよと思ったのだけど二回目は瞬殺されて私の負け。

はいはい、わかりました。あなたは強いです。

そうして立ち去ってしばらくした後の休憩時間。

喫煙所でIさんと一緒になったので、握力68自慢事件と腕相撲事件のことを話した。まさかのIさんの強敵がいましたよと。

するとIさんと隣にいたHさんも『Mさんって、あのMさん?!あのおとなしい?』と何度も訊き返して来る。

そりゃ無理もないんだわ。その一連の言動が全然イメージじゃないから。

何で私、皆に威嚇されるのかしら。元ヤンだと誤解されてるから挑戦して来るのかな?

するとIさんがマジな顔で「・・・・・。誤解?」と言う。

・・・・・・・。もう良いです。皆、いくら言っても分からないんだから。

そしてその後、事態はちょっと面白い展開になった。

ここの女子はほんとに皆負けず嫌いだなあーと改めて思った出来事が。

でも、長くなったのでまた今度。
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2017年04月29日

またね

2月あたりまで一緒に働いていたナースさんが居て、今その方は有料の老人ホームで頑張っていらっしゃるとのこと。

その方が退職する当日に別フロアーの介護の女性と栄養士さんと四人で飲んだ夜があった。

てっきり送別会的な心持ちで行ったのだけどYナースさんとはあまり話ができず。

と言うのも各部署色々なストレスが溜まっているせいなのだろう。特に介護側のSちゃんが。

それからずいぶん長い月日が流れた気がしたけれど、そうでもないのか。

二か月くらい前にSさんが居るフロアーに降りて仕事をしていると突然「何?」と言われた。何って何?・・・・。

「あ、さては溜まって来たんでしょ。飲みに行きたいんでしょ?」

いや・・・私はお酒は好きだけど、好きだからこそ、飲み会は溜まっているものを発散する場所にしたくないのよね。というよりも、第一溜め込まないし。

「Yちゃんにも連絡しておくよ。」

あ、Yさんには会いたいな、確かに。

「いつにする?ライン、交換しよう。」

ああ・・・じゃあ、来月の勤務表が出来てから皆の休みの前の日が一致するところを探しますか?と提案してその場は終わった。

で、4月に入ってからも相変わらずバタバタしていた。

顔を合わせると「尾崎ちゃん・・・、ライン。早く都合の良い日を教えて。」と通りすがりに声かけ。

ああ、そうだった!とその時は思うのだけど、またしても忙殺されていて、とうとう3プッシュ、4プッシュとさせてしまい、とうとう先日「尾崎ちゃん!もう4月が終わっちゃうよ!」と強めに言われた。

ちゃん付けで呼ぶ人ってこの施設ではこの人だけだわ。しかし。
多分、年下だと思われているんだろうなあ。

「今日こそラインちょうだい。」

で、ですよね。と答える。

ほんと、まじで会いたいんだけど、何、この忙しさ。

しかし、とうとう今夜叶った。

栄養士さんもYちゃんもとてもユニークで良い人。好きな人。

多分皆世界観が違うけど。

遠くの駅でも会う価値あり。

栄養士さんとYさんにはまた会おうねと、そしてSちゃんにはまた明日ねと言って駅で別れた。

思うに、私は話が合う合わないにこだわり過ぎるところがあるみたいだ。

皆それぞれだから、互いに言っていることの意味が通じ合えないこともあるだろうに、つい「どう言ったら噛みあうかな?どう聴いたら理解出来るかな?」ってなことを思うらしい。

でも、最近は、全然違うことを楽しんでいる。

これで荻窪も4〜5回行ったな。Iさんとのバッティングセンターの夜も含まれる。

ところで私の伝達ミスで翌日も仕事の日が飲み会になってしまった。

明日きついだろうなーとこれを打っている夜。

はよ、寝よ。
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2017年04月25日

スモーク&ウォーター

ある日曜日、聞きなれないメロディーコールがどこからか聞こえていて、最初は下のフロアからの音かと思っていた。

よく吹き抜けから階下のナースコールが聞えて来て混同してしまうからだ。

ホームで言うナースコールが呼ぶのはナースではなく、ほとんどが介護職員の方々を呼んでいる音だ。トイレが終わったよとか、椅子から立ち上がったよとか、その他諸々。

何十年もナースコールに反応して来た身としては落ち着かないのだが、それらを無視するという状況にある。何故ならば行っても役に立たないことが多いし、長いこと介護している人々こそが熟知している一人一人の身体の癖や習慣があるから。

でも、その音を聴いたとき、何故だか行かなくちゃ。どこから鳴っているのか見つけなくちゃ。と、そういう思いにかられてフロア中を探し回った。

私が探し出すと他のナースさんたちも探し始めた。

そしてほどなくどこから鳴っているのかが分かった。

第一発見者は私。何せ探そうと思って動き回ったから。

”あの人が探しているから一緒に探さなきゃ”じゃないわけで。

すると、少々体格の良い方がトイレが終わった後狭い壁と壁の間の床に座り込んでいた。

あ、大変だ!と動揺したものの、すぐには手が出ない。下半身が著しく浮腫んでいる上に衣服を身に着けていない。それに狭い。

どうやったら、痛みを感じさせずに持ち上げられるのだろう?助けられるのだろう?と躊躇したのが数秒間。

意を決して抱え上げようと手を出そうとしたその時、私とその人の間にスッと腕が入って来た。

え?

一瞬のことだったけれど、どうやら私とそうそう変わらない身長の女性の影。

入浴係のIさんがたまたまそこを通りかかったらしいのだけど、無言で腕を出し、片手でその人を持ち上げて便器に戻した。

片手?しかも黙って。あと、早すぎる。

かなり汚染しているのに手袋一つせず、散歩の途中で通りかかったからついでにと言う雰囲気で終始無言で。

あ、ありがとう。。。と言うのと同時にビックリした。

その行動と動きがほとんど本能的で、全く予備動作もなく、全く考えることもなく自然だったから。

よく傍から見て「動じない」とか「何でも速い。」と言われて来たけれど、その時の自分が非常に考え過ぎるのろまな生き物のように思えた。

しかも、何、あの力。

そのまま去って行こうとするのはその後バイタルを測るのも何もかも、”それは自分の仕事じゃない”と分かっているからなのだろうけど、何事もなかったようにスタスタ行ってしまうので「ありがとう!あの!ちょっと!ありがとう!」と声を大にする。

わずかに片手があがって、うんうんと頷くのが見えた。

*******

昼休み、少々仕事が食い込んだ。いつもよりちょっと遅めに屋上へ行く。喫煙所兼待ち合わせ場所。

タバコをくゆらせていたIさんと一階に降りる、グローブを持って。

今日はK姉さんもいるし、何と、外でAちゃんが待っていた。ブラックのグローブをつけて。

あ。。。ほんとに持って来たんだ。離婚相手のところから。

わざわざ取りに行ったんだ、本当だったんだ。面白い子だなあ。

どうでも良いのだけど、初めてAちゃんが参加した前回同様、ボールがとんでもないところへ行く。

前回も「もう!Aちゃんのせいでキャッチボール禁止になっちゃうじゃんか!」と怒っていたのだけど、今回はこれまた到底取れない場所にボールが行ってしまった。

全員「・・・・・・・。」。

まあ、私たちも久しぶりにやったときはそんなもんだったし。。。そして今は短い昼休みだからボール探しに時間を割いている暇はない。だから、後程取りに行くとして・・・・。

軟球一個と硬球一個しか持っていない私。要するにこれが私たち四人が保持するボールの全て。

その軟球が取れなくなってしまったので自ずと硬球でやることに。

さすがにAちゃんも慎重になった。

それは良いのだけど、剛速球のK姉さんに向かってIさんがもっと凄い剛速球を投げる。

K姉さんが取る度に「いったーーい!」とグローブをはずして掌を確認している。遠目に見ても分かるほど、真っ赤になっている。

その様子がおかしくて・・・というか、凄くて。

しかも、Iさんが事務の要のK姉さんにボールを投げつける際「午後、パソコン使えないようにしてやる。」とぼそりと言いつつニヤッと笑いつつ投げている。

「なにーー?」と爆笑しつつ、そして痛がりつつキャッチするK姉さん。

でも、Iさんは私に投げるときには、気がつかれない程度に弱く優しく投げている。

痛くない。そして自然に投げ分けているのであからさまなひいきには見えない。

それが少し嬉しいのだけど、かなり悔しい。

道を歩くときにも、Iさんは絶対に私を内側に入れて自分は車道側を歩く。多分無意識なのだろうけど、場所をずれようとしても自然に内側に格納されてしまう。

何だか弱きものとして扱われているのが悔しい。

けれども、おそらくは客観的、そして無意識に判断して黙って施される優しさに未だ度々ビックリする日々。

ロッカーに菊池のカードを貼ってくれていたのが嬉しかったので、私も引き当てたIさんが若干好きな選手を貼ろうとしていたら、横から「おはようございます。」と現れるので貼る前に見つかってしまいロッカーに手を伸ばした姿で硬直。

ほんとに、トイレで利用者さんを抱えようとした時と同様に横殴りのように現れる。

あ、う、これ、今貼ろうと思って。。。という一日の始まりだったのが、それから9時間後だか10時間後、帰りの電車の中でIさんからライン。

「カード、ありがとうございますね。」

何か重要なことでもない限りラインなんて一切送らないだろうなと、いかにもそう見える人なのだけど。

富士山のビューと言い、今回の目まぐるしい一日のほんの始まりの一つの出来事への「ありがとう」と言い、いちいち心に染みる。

本当に全てが異質なのだなあと思う。

その違いを大切にしたい。

ので、自分のことを頑張ろう。

あちらの世界とこちらの世界のキャッチボールが対等に出来るように。

********

その人は無表情で、いつも静かにつぶやきながら私を笑わせる。

まるで腕の振りだけ見ると軽く投げているようにしか見えないボールが伸びて剛速球になるかのように。

一方、Iさんほどではないが冷静かつ表情少なきAちゃんも、逆に表情豊かで声が大きいK姉さんも「楽しい!尾崎さん、面白い!」と言ってくれる。(どこが面白いのかはサッパリ分からないけど。)

あとは、少なからず言葉に出していたり、はたまた、人づてに「あなたと接してると楽しいって言ってたよ。」と伝わって来たり。

が、Iさんは楽しいのか?

「はい、はい。」と仕方なく付き合っているわけではないのか?

そんなことをふと思っていたとき、横でZippoがかちんと鳴った。

水を飲みつつタバコの煙を吐きつつ、Iさんが言った。

あたかも巻きタバコの煙が静かに吐き出されるのと同じテンションで。あるいは水を飲むかのようにあたりまえのように。

「バーベキューも行かなきゃいけませんね。」

・・・・・・・・・。

今、二人しか居ないよね?

行かなきゃいけないって・・・・・。あと、ほんとに行きたいのか・・・?

突っ込みどころ満載の表情とテンションとセリフだったが、絶句したまま、こちらも無言でうんうんと頷くばかりだった。

とりあえず、こちらも、水と煙。
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2017年04月19日

言葉が空に溶けて行った

ある人と一緒に居ると、これまでとはまた違った意味で自分自身を振り返ってしまう。

ニュートラルな人、ナチュラルな人と接していると、余計に自分のおかしなところが浮き彫りになるからなのだろう。

それが自分なのだから仕方がないのだが。

人に静かだ、落ち着いている、クールだと言われることが多いけれど、その人に比べれば私は物凄くおしゃべりだ。

自分の発言がぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋っているように感じられたのは初めてかも知れない。

もちろん比較論に過ぎないのだけど、その人がそういう私を引き出す。引き出される。

それは悪いことばかりではないのだけど、どこか何かを失ったかのようにも感じる。

もったいなくて大事で、おいそれとは喋れないようなことをどんどん手放して汚して行ってしまったいるような気がするのだ。下手するとその人の世界まで。

多分これは考える価値があること。

一人の自分を色んな意味で感じる。

ところで、「これやって見て。こういうふうなやつ。」と、とある指示動作を提示された。

左足を前に出したまま屈伸した姿勢から簡単に立てる。でも、右足を前に出して左足を軸にすると立てなかった。

「それでも片方出来るだけでも凄いよ。」と近辺の人は言うけれど、あの人は両方とも同じようなテンションで普通に立てる。

剣道の理屈と行くと左足の方が強かったはずなのに、いつの間にこんなに軸がずれたのだろう。

現実的な身体の足と同様、心理的にも両足で立ちたい。片方づつでも自分を支えられるようになりたいと思った。

******

Aちゃんが「グローブ、持って来ようと思ったらなかったんです。買おうかな。」と隣の介護のステーションから声をかけて来る。

うちに昔のやつがあるけどそれでよければ持って来ようか?とこちらも少し遠くの彼女に声をかける。

すると「あの、知ってるかも知れないけど、うち、離婚してるんですよ。」とかるーーく言って来る。

・・・・・・・・・。いや、知らないし。しかも、今の会話の流れと関係ある?(たじたじ)職場だし、結構離れたところで声張って喋ってんのに、良いの?そんなプライバシーに関わること。

「いや、ちょっと我慢して離婚相手のところにグローブ取りに行こうかな?」って話ですよ。

・・・・・・・・・・・・・・・。なるほど。

時に、Iさんと一緒に居る時の自分のしゃべくり加減に嫌気がさすと言うのに、何故にAちゃんが訊いてもいないことを喋るのは小気味よく可愛いのだろう?

まあ、それは・・・多分あんまり自分が好きなわけじゃないからだろう。あいかわらずね。

けれども、だからこそ考えるし成長出来る。
*****

今朝、私のロッカーの扉、しかも私の身長での顔の位置に菊池選手のカードが貼ってあったので笑った。よく彼の物まねをするので大ファンだと言うのがありありだったのだろう。Iさんだろう。

昼休みに会った際「いつ貼ってくれたの?昨日は無かったのに!」と嬉しくて訊いたら。

「今朝。」と一言。

・・・・・・・・・・。終わりかい。

持ち歩くのと貼っておくのとでもう一枚頂戴。

「菊池はなかなか当たらないんだよ。」

????何?くじ?

「プロ野球チップス。」

どうやらお菓子らしい。

・・・・・・・・・・。また終わりかいっ。

まあ、いいやと勝手にしゃべている間に気が付けばまたキャッチボールしていた。

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2017年04月18日

こうなるのか

介護職員のkyoneちゃんの苗字は非常に硬い音をしている。小説家の苗字みたい。

小柄で細いのだけど職業柄筋肉質。

私が初めてこの職場に派遣で来た当初、まあ、凄く可愛い顔をしている素敵な子だけど・・・無表情な子だな、きつい子だなあと思っていた。

真面目で発言が非常に厳しいからかな。

多分互いにむっとすることもあった。要するに私も傍から見ると負けず劣らず毒舌に思われるからだろう。

しかし、勤めて1〜2か月経ったあたりから「あの。ご相談があるんですけど。」としょっちゅう話しかけて来るようになった。相変わらず単調な声音だったけれど、その相談内容というのが毎回興味津々なことばかり。

「○○さんの背中の褥瘡についてなんですけど、こういったものを作りたいと思うんですけどどうでしょうか?」とか、「介護ではこの時間に起こして、この人の場合はこの時間に排泄に入っているんですけど、この時間帯にもう一回増やした方が良いでしょうか?」とか「●●さんの臀部がこんなふうになっているんですが・・」とか。

それまでの看護業務を覚えるのも必死だったのだけど、覚えれば覚えるほど、ここは間違っている、ここはこうして行かなければならない・・・と課題が山ほど出て来ていた時期で、実際今もそれは続いているのだが、その傍らでkyoneちゃんはその周辺の介護職員数人の情報提供が無かったら、もっと状況が分からなかったことだろう。

しかも、訊いてくれることが、まさしくこれまでの経験や知識、またある時は新しいアイディアを生かさせてくれる内容ばかりだった。

そして月日が流れた。

今も私は私でkyoneちゃんはkyoneちゃんだが互いに突っ込み合って笑うことが多くなった。「はじめは優しかったし礼儀正しかったのに、なんでそういうひどいこと言うようになったの。」と。

そして後から分かったことだけど、うちの娘たちくらいかそれよりもう少し上なのかな?と思っていたのだが、30代後半で既に子育て中だったということ。

なんだよ、言うこときいて損したよ。と言うのも、私は若い女の子でちょっと毒舌な子を見るとすぐに娘たちを投影してしまって、気が付いたら笑顔にしようとしてしまうし期待に応ようとしてしまうから。

しかし結局年齢が分かった今でも挨拶しているときの表情一つで「何、何、どうした?何が不満なの?」となってしまう。

時にIさんとキャッチボールをやるようになってから発覚したことだったのだけど、皆口々にソフトボールをやっていたとか野球をやっていたとか。kyoneちゃんもそのうちの一人だった。

細っこいのに。。。そうは見えないね。

「尾崎さんこそ。」

いや、私はそういう部活はやったことないですよ。遊びでやっていただけ。

「その割にはなかなかだけど。」

そんな軽口を叩いている折、kyoneちゃんが昼休みに外に出て来た。体調不良のK姉さんのグローブを借りて。

おお、来たか。

午前中に入浴場でIさんに会った際「この間はどうも。」なんて話をしていて「あの翌日にバットを買いましたよ。でも、重いやつを売ってくれなかった。だから重りでも買うか。」と言うといつも静かなIさんが珍しく爆笑していて。

「尾崎さん、あたしは通販でこういうバッティングの器械を買おうかと思って昨日必死で探していました。」と言う。

すると、常日頃、何事にも無関心という感じのkyoneちゃんがカーテンの向こうから入浴介助用のエプロンをつけたまま出て来て「二人で何話してるんですか?!」と言う。お、居たのか。今日はお風呂係だったのか。

その会話を聴いていた後、私が看護業務に戻った後、Iさんから詳細を聴いて「あたしも昼休み、キャッチボール行く。」ということでやって来てくれたらしい。

もっとも職種が違うので昼休みの重なり具合が少ししかないのだが。

その少しの時間で「やばい。楽しい。」と無表情でつぶやきつつキャッチボールをしていたkyoneちゃん。

それから忙しく仕事をしていての夕方頃、後ろから「尾崎さん!」と声がする。

あ、kyoneちゃん。お風呂、全員入れ終わったんだ。

「あたしもグローブ持って来ますよ。」

忙しくて、ハハハと笑うだけで振り返って表情を見る暇もなかったのだけど。

意外だなあ、楽しいなあと思った。

Iさんは「明日居ます?それとも休み?」と訊いて来る。「あたし、今週だけ、明後日が休みで明日が出なんですよ。だから、明日できますかね?(キャッチボール)」。

ああ・・・明日は恐怖の往診日第三回目なのだ。昼休みが取れそうにない。

なんて悲しいんだ。

でも良いだろう。また今度出来る日まで体力を温存して仕事をきちんと終わらせるようにしておこう。

人というのは不思議だ。

出会い立ての頃、一番不愛想だった者同志がキャッチボールなんてしながら真面目に深い話をするようになったり、互いに毒をはいて突っ込みをいれるようになっている。

何にも知らないしあえて訊かないのに気が付いたらぽつりぽつりと自分の話をしたり、自然に互いを知るようになっている。

考えてみればいつもそうか。

出会い立ての頃、ぐいぐいずかずか色々訊いて来たり、訊いても居ないことを説明して来たり、ペラペラ喋りかけて来る人よりも、そして、何もしなくともそういう人たちとの縁が深くなる。

そういう人たちの方が相手や周りをよく観ているせいかも知れない。言葉よりも行動を見て何かを互いに感じ取っているらしい。

見る人が見ないと分からないKちゃんの「やばい。楽しい。」というかすかにウキウキとした顔やIさんの機嫌の良い静かな笑いや。

相反してパン!と音がする強い球。

これは確かにやばいわ。

仕事のメリハリにもつながっている。

取り損ねた球をすぐに取りに走るような、あきらめない心に通じている。
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2017年04月17日

桜の花びらとギターのピック

事務のK姉さんが「三人でバッティングセンター行こうよ。」と言った時、私とIさんは「そ、そうですね。」と生返事だった。

おそらく私と同じくIさんもそういうの大好きなのだけど、いったいいつ行けるんだ?という気持ちや、つい最近親しくなったばかりの相手とプライベートの時間を過ごすのか?という思いなどがあったんじゃないかな。

しかし、その生返事に対して日にちをおいて3プッシュ、4プッシュとされるうちにIさんが「じゃ、行こうか?」となった。

その上、三者三様の職種が違う上での勤務表を照らし合わせ、K姉さんが「尾崎さんはここでの仕事の日は疲れるから飲みにも行きたくないって言ってたよね?じゃ、尾崎さんが休みの日にしよう。」と仰り、Iさんは、「O駅にあるバッティングセンターに行こうと思ったけど、立川にも店舗があるから立川に行こう。」と仰る。

何と言う気遣いの人たち。O駅ならバスで10分くらいなのに。

勤務の日でも行くし、O駅の方でも大丈夫だと主張したのだけど、心配そうになさるので「じゃ、両方行きましょう。まずは近隣のO駅の方で!」ということで話が決まった。

しかし、「楽しみだわ!」とK姉さんが一番喜んでくださっていたのに、何と当日になって発熱と体調不良で休んでいらっしゃったので、あららら!

心配は心配なのだけど、Iさんと笑ってしまったのだ。あのはしゃぎぶりと寝込むという対比。

そして、わずか数十分とは言えキャッチボールがハード過ぎて弱ってしまったんじゃないか?という予想。

今度から「はい、休んで。」とマネージメントしなきゃね。と笑うのだけど、私もIさんも取りやめにする気が全く無くて二人で仕事帰りに行くことになった。無言だけど。

自転車で通勤なさっているIさんに「私、バスで追いかけますから先に行っていて下さいよ。」と言ったのだけど「O駅までブラブラ歩いて行きませんか?嫌なら良いけど。」と言われる。

嫌なものか。

それで自転車を引っ張っているIさんと桜絨毯の住宅街をゆっくり歩いてO駅まで散歩した。

何だか、「歩くの、早くありませんか?早かったら言って下さいね。」とぽつんと一言言ったり、必ず車道側を歩いたりと、何だか凄く優しい。ってか、それ、女の優しさとちと違うような。

駅についてお薦めの巻きタバコの材料と巻く器械を買って、「巻紙はプレゼントする。持って来たから買わなくて良い。」と言ってくれたり。

それから目的のバッティングセンターに行ってIさんのスゥイングを見て、やっぱすげーなーと思う。

しかし、二人とも何十年かぶりだったのですぐに手が痛くなる。一番遅い80キロの球より100キロの方がよく当たった。

いい加減疲れたあと、エアー何とかというゲームがあったので「懐かしい!これやろうよ。」ということで興じる。めっちゃ怖いほどムキになっていたけれど、唯一Iさんに勝てたゲームとなった。

ベンチに座って「いててて。」と手を押さえる私たちだったが、「・・・・。もう1ゲーム振ろうか。」ということでまたバッティング。

それから少し夜の街をふらふらして飲み屋さんに入って三杯ほど飲みつつ色々な話をした。

この駅まで来る途中歩きながら「休みの日は何やってるんですか?」と言われたので自然に「心理カウンセラーなんですよ。あんまり休まないんです、私。」と話していたのだけど、そのせいか、Iさんが珍しくホーム以外での仕事の話を饒舌に語ってくれた。

そしてかつて夢見ていたことが叶わなかったことや、それでもそれを福祉に生かしている話や。

好きな音楽や映画は不思議とシンクロして盛り上がった。

おもむろにギターのピックを「これ、あげるよ。」と下さった。

「わー、これ、Iさんが使っていたやつ?」と訊いたら「いや、新しいやつ。」と言われたので「使ったやつを下さい。」とずうずうしく言ったところ、少し笑って「じゃあ、はい。使い古したやつ。」と言って二つともくれた。お気に入りのやつだったろうに。

飲んでいるときから駅までの帰り道、Iさんがホーム以外で接している方々の話を聴いた。

「皆、あの方々のことを何も分からないとか言葉を持たないって言っているけど、言葉を持っているんです。誰も信じてくれないけど。」と私の掌を引き寄せて指文字を書いてくれた。「こうやって、ちゃんと意志を伝えているの。でも、誰にでもは言わない。分かって欲しいけど、誰にでもは言わない。信じてくれる人はいないけど。」

夜の街を歩きながら思わず泣きそうになった。信じるも何も絶対そうだもの。

もったいなくてべらべらは喋れないからいつも寡黙なのか。

大切なライブの日時を教えてくれて、そして大切な本をくれると言ってくれた。

それと同時進行でバッティングやキャッチボールについて「課題が浮き彫りになりましたね。」と笑い合っていた。

「私には心理カウンセリングとか分からない世界だなあ。」

全然良いですよ。分からなくて。私もIさんの世界に感動するけれど、自分には出来ないことだもの。

とは言いつつも、自分では使うことも出来ないピック二枚を大切な宝物だと感じて握りしめた。
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2017年04月15日

彼女が寡黙な理由を知った夜

屋上での昼休み、柔らかいおもちゃのボールでIさんとキャッチボールを気ままにやったのは一度切り。

グローブを持って来るようになってからもそのまま屋上でやろうと思っていた。

何せIさんが上手いので相手がどんなに下手でも取り損じることがない。それはキャッチャーという名のゴールキーパーと言った方が良いほどで。

そこに事務のK姉さんが参加することになった際「屋上では怖いから無理。地上で、施設の駐車場でやろう。」と。

確かに屋上よりずっと広いし良いかも。

と思ったが昼ごはんを食べたあと、何せ喫煙所も兼ねている屋上でとりあえずIさんと一服している際「かったりーなー。」とIさんが言った。

あれ?!と思った。

私もそう少々そう思っていた。屋上から地上に降りて喫煙できない場所へ行くのが。

K姉さんはまだIさんのキャッチボールを見たことがないから屋上が怖いんだろうな、大丈夫なのになあーとかツラツラ思っていたのだが、それは言ってはいけないことだと思っていた。

それをあんまり簡単に言うものだからビックリしてしまった。

でも、まあ、広いところも楽しいでしょうから行きましょうということで半分は車の通りが少ない道路、もう半分くらいのスペースは施設の敷地内という状況で三人で始まったキャッチボール。

結果、屋上よりも怖かった。

K姉さんはパワフルで肩が強いがコントロールが。。。。

だが、やがて、そのK姉さんのその剛速球とコントロールの無さが私たちを鍛えることとなった。

最近はゲッツーの練習が始まったりしている。

とは言うものの、K姉さんは気を使っているのか本当に疲れてしまうのか分からないがすぐに休憩する。

そこがまたK姉さんの面白いところ。

で、結果、Iさんと私とで二人でやることが最も多い。

身体が出来上がっているはずのIさんが「なんか、私たち基本を固めてうまくなってるよね。さすがにここが痛いわ。」と言う。

確かに。基本ね、基本。

オペ室ナースで言うと盲腸のオペを何度もやっているみたい。

最初の2回目くらいは身体を動かした後の独特な筋肉痛があったが今はもうほとんど無いし、気が付けば筋肉がついている。

たかだか数十分のキャッチボールでそんなになるもんかと思いきや、始めてから一か月も経っていないうちに身体に変化が。

仕事での変な身体の痛みは依然としてあるけどね。

Iさんの出勤日が隔日なもんで、結果48時間ごとにやっているってのが良いんじゃない?と言いつつボールを投げると「そうだね。」と返って来る。

仕事中は互いに敬語なのにこの時間だけは互いにため口。

それどころか、回を重ねるごとに仕事中の敬語がなおさら丁寧さを増した敬語になっていっていることに気が付いた。

相手はどうだか知らないけれど、私の方はおそらく知れば知るほどその凄さが分かって尊敬してしまうからおのずとそうなってしまっているらしい。

仕事中よそよそしいのにいつもグローブの袋をさげて昼休みの終わりに一緒のエレベーターで三階へあがり、屋上への階段を一緒に登り、そしてそこまで色々しゃべくって、一服した後にはそれぞれの部署へ帰る。

その様子がいつの間にか色んな人の目につくようになったせいか「Iさんと仲良いね。メールやラインでも話すの?」と訊かれたのだけど、「メルアドも電話番号も知らないし、ラインやっているかどうかも知らない。」と答える。

相手が不思議そうに色々尋ねて来るのだけど「それも知らない。何にも知らない。」と答える。

けれども、ある日、とある計画にて一緒にバッドを振り回した夜、ラインを交換することになった。

その日の夜は色んなことがあった。

色んなものを見て、色んなことに出会った。

街は桜のじゅうたんが至るところに積もっていた。
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2017年04月14日

仕事も遊びも真剣だし

週の初めの方の内科往診。というか週の初めに変わった新しいシステムの往診二回目。

先週の初回よりはましに終わった。

というのも、先週第一回目が終了した後の一週間が地獄で。

当日だけで疲れている場合ではなかった。

処方箋の訂正願いを山ほどファックスして分かって貰うべく勤めた。嫌われるけどね。

リーダーは嫌がるけれど横から何か叫びたくなる大御所様のお一人にも一週間通して昨日やっと真意が伝わった。

これこれしかじかで、こういう方法で行くつもりなんです、こうでもしなければ何も変わらないのだということを直接的な表現ではないけれど、触りだけ伝えた際、一瞬の「ああ、そうつもりなのか。そういうふうに考えていたのか。」という表情を見て”よし、伝わった。”と確信。

電話の横にはいつ折り返しの外線がかかって来て問い合わせられても良いようにファックス送信済みのコピーの山を置きっぱにしておいた。”これはここにあるものです。片づけないでください。”というメモを残して。

案の定問い合わせが何十回となくかかって来たのだけど必死で取った。

やがては私にしか分からないと思われて敬遠されていたことも一人二人と理解してくれるようになった。

そんな流れでの二週目だったせいか、来て下さったドクターも時間をほぼほぼ守って遅刻しないでくれたし、耳も開いていたし、その後処方箋の訂正も半分くらいに減った。

先の大御所様が「先週よりましだけど、まだ道半ばですね。」と呟くのを聴いたとき、「そう!」と心の中で叫んだ。そうなんです。そういう状況です。分かって貰えて嬉しい。道半ばってことが分かるということはどんな状況を目指しているのか?ということが分かるということだから。

いやあ、また痩せてもうた。

*********

週の初めの往診が終わっての翌日。Iさんの出勤日。

久々にきっちり取れる昼休み。

Iさんと誰かが屋上の上の方で話していて、私と大御所様は階段の下の方で一服しつつ談話していた。

するとIさんの相棒がタバコを消して立ち去った瞬間のこと。

「今日はやらないんですか?」とIさん。

私はいつでもやりたいですよ。でも、毎回やると決めるとIさんがうざいんじゃないか?と思って。(何せへたくそだからな。退屈させてしまう。)

「そんなのは全然気にしなくて良いです。」とキッパリ言われた。

じゃあ、外へ行こうということで久しぶりにキャッチボール。グローブも大分柔らかくなって来た。

「コントロール、またよくなりましたね。」

いつもいつも冷静で静かな声の調子を崩さず褒めてくれた。

バン!シュッ!バン!という音だけが響く中。距離が離れているのに、時々聞こえる静かな、ささやくほど静かな「ナイスボール。」という声。私のボールを取った瞬間に表情一つ変えないIさんがかすかに言うときがあるのだが、私はそれが嬉しくて。

そしてある瞬間、ボールを止めてグローブを自分の顔くらいの位置にあげてこちらへ向けて言うことには、「○○選手がPL学院に居た頃、後輩に投げさせるとき”俺はここに来たボールしか取らないよ。”って言ったんだって。」。

それだけ言ってグローブをその位置から動かさない。

「!!!!それはまるで私に必ずそこに投げろと言っているようなもの。いや、他ならない。」という気がしてビビった。

滅多に何かが怖いっていうのは無いが。凄い圧だった。

ところが何度投げてもちゃんとそこに行く。

投げる度にIさんが「すごい。ボールが吸い込まれるようにここに来る!!」とIさん的にはハイテンション気味になっている。

「すごい。見て、ほら!凄い!」と繰り返すのだが・・・・Iさんは私にヒプノをかけたことに自分で気が付いていない。

よく笑った昼休みだった。
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2017年04月11日

大地を踏み空を見上げ河を愛でて光を抱く人

ある人からとある状況を聴いて最初は見当違いな危惧をした。

それから少しだけ経った時、「ああ、こうかも知れない。」と思った。

思うよりもずっと自然なことだったのかも知れない。

何が原因とかそういうことじゃなくて、いや、それを考えるのはもちろん大事なことなのだけど、その人の研ぎ澄まされた人生に余計なものは要らないのだなということ。

必要なことを必要なだけ。そして必要な場所に必要なだけ行き、会う事は必要な人に必要なだけ会うということが大切なのだろう。

どうやって研磨されたのか?というと、その人が背負って来た環境や人生そのものでもあるが、それだけではない。

彼女がそれらときちんと向き合って来たからこそ出来た今の心身なのだ。

心や頭が分からないときには身体がサインをくれるのだろうし、身体だけが走り出したとしても、心が嫌な場合は必ず余計なことを余分な分だけ止めてくれるのだろう。

そんな折、とある日の教育分析でスーパーバイズ的な相談を受けて、興味深く彼女のセッション内容について一緒に考えた。必要な体験をなさってしっかり考えていらした。

「そうだよね。そうなんだよね。」と自分も体験したことがあるパターンや、その時に感じた自分の思いなどもあり、”ああ、こういう話が出来るようになって嬉しいなあ。互いに分かる部分、重なる部分が増えて嬉しいなあ。”と静かな感激すら感じた。

沢山話して、そしてとあることを待っていたが、「そうかあ、言い出さないかあ・・・」と思ってしばらく待つことにしたのだけど。

終盤になって、”いや、これ以上何かしらの気遣いをさせてしまうことになってはいかんなあ。”と思った。

多分だけど、お互い何かをハッキリさせたいタイプだし、逆に気を使い出したらキリがないタイプだと思うから。

なのでこちらから切り出してみた。

誤解されないように気を付けつつ思いを伝えてみた。

その研磨された輝きに憂いは似合わないから。

すると応えてくれたように感じたお返事。

一つのお付き合いのスタイルが終わった。

そして、これからもうんと自由でいて欲しい。

感覚というのは心身共に正直だ。

そして一つの時代を共に成長出来た時代の、例えばタイトルや方法が変わるだけ。

がしがしと歩いて、きちんと休んで。そんな彼女を信頼できることの喜びが全てに勝った。

ありがとう。

全てのことに。

大地を踏み空を見上げ河を愛でて光を抱く人。

自由で良いのだと知り、私にもその自由を教えてくれた人でもある。
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2017年03月22日

青いグローブ

世間では休日の日、夫がカウンセリングの事務所まで送ってくれると言う。

が、私はグローブを仕事前に購入したかった。

事務所の道路向こうの斜め前くらいにマニアックな野球専門店は出来たのはそんなに前のことじゃない。

最近は駅ビルに必ず置いてあるわけでもなく町のスポーツ用品店もどんどん潰れて行く世の中。

なので、その野球専門店を思い出した際「やった!すぐ近くにあったわ、そう言えば!」と喜んだ。

夫は「え?なんでグローブ?」

とビックリしているのだけど、訳を話すと長くなるので手短に話した。あと、昔買った自宅のグローブが二つとも古くてボロボロになっていることも。

「それは良いけど、あんなところで買うと高いよ。ドン〇にしなよ!」と夫は言うのだけど、残念ながら私、そのディスカウントストアが苦手。めちゃくちゃ物が積み上げられた汚部屋みたいで。

ちょっとした日用品や電化製品なら観に行かないでもないけれど、グローブとか大事なものを買うとなると話は別なわけで。

それを説明したものの、「でも、ああいうところは高いって!」と店の前に着いても、山ほどのグローブを私が観ている間もずっと横でワーワー言っていた。

そんな状況なのにシンとした心でもくもくとグローブを選ぶ私。本当は千賀と同じモデルだとか金子と同じモデルだとか、ダルちゃんのやつとか・・・ポスターを見るとワクワクするものの、そこは黙って妥協してあきらめる。それこそマジ高いかんね。

子供の頃、そして自分の子供が子供の頃にグローブを買うときには、もちろんアホみたいに安いものしか選べず。しかも、買ったものをそのまま使っていた。サイズが合わなくても嬉しかった。

が、こういうところで買ったのが初めてだったので知ったのだけど、その場で皮をガンガン叩いてなめして、紐も調節して実に柔らかく使いやすくしてくれるのね。感動した。

で、ボールを買おうとしたところ、「硬式ボールはどこだ?あ、これ軟球かー。え?!軟球ってこんなに硬かったっけ?」と小声でブツブツ言っていたら店員の兄さんが「あ、そうです。軟式です。でも、今は硬球使えるところなんて滅多にないんで軟球にしておいた方が良いですよ。」とアドバイスをくれつつ硬球も持たせてくれた。

なるほど。ありがとう。じゃあ、軟球と硬球と両方下さい。時と場合によって使いわけるから。そりゃ硬球の方が受けたとき気持ちが良いけれど。

「は、はい。」と言いながら吹き出している店員さん。なんで笑うの?

その様子を見ながら夫がついに黙った。

そして捻りだした言葉は「あいかわらず、誰の言うこともきかないね。。。」ということだった。

そういうつもりはないのだけど、大事なことにおいては仰る通り。

一緒にキャッチボールをするIさんの「硬球でやりたいっすよね。」という笑顔が浮かぶ。

彼女の場合はキャッチャーミットも持っているそうで。

私はというと久しぶりで鈍すぎる故、夜な夜な、仕事の合間にグローブを着けてならしてみたのだが、既に手首が痛い。

グローブ一つ支えて動かす程度の筋肉も自分で作らなきゃダメなわけだ。

「どこ行っても楽しそうだな。」と夫が言う。

いや。。。どこ行ってもめっちゃきついことの方が多いのですが。

とりあえずは皮の香りにワクワクする。
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2017年03月19日

真似はできないものの

メールカウンセリングまた一通送りました。

亀の歩み、亀の歩みというけれど、果たしてこの亀はウサギを追い越せるのだろうか。答えは否。

問いかけ自体が間違っているから。

ウサギは存在しないし、存在していたとしてもウサギにはウサギの道や仕事があり亀には亀の仕事がある。

私がやることはいつも比較や競争相手が居ないことばかり。

勝手に競争相手と思い込まれることは多々あるのは事実だけど。

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「スプリンターですか?それとも長距離派ですか?」と巻きタバコくゆらせながら質問して来る仕事仲間の女性。まあ、職種は違うけれど。

今はもちろん無理だけど学生の頃は中距離でしたが・・・。

そんな会話が始まったのには、訳があった。

ふと医務課のドアを開けると、目の前の廊下を忙しい彼女が遠いエレベーターのドアが閉まりそうになるのをめがけてダッシュしたのを見た瞬間、バッ!心の中で何かが燃えて反射した。

笑いながらだったけれど、後からすぐにスタートを切り、彼女を追い越して先にエレベーターに乗ったという出来事。

すると、あたかも「今日、飲みに行きませんか?」とでも問いかけるような軽いテンションで「一緒に東京マラソンに出ませんか?」と言うので「なっ!?」という変な声が出た。

もうそんなに心肺が強くないし、年だし、体力も元々ないし、そんなことしたら死亡してしまいます。ほんとに何てことを気軽に言うの?と思った。

まず喫煙者だし。

すると「それは関係ないですよ。」と軽く返って来た。

確か私より5〜6歳くらい若かったと思う。それくらいの頃、私は同じように思っていたかな?いいや、やっぱり今のように「いやあ、無理無理。」と言っていた。

どんなに忙しくても同じテンションでクールに仕事しているのを半年以上見て来て、まあ、この人の連れの方も同じなのだけど、体幹がしっかりしているからなのだな。心ばかりか、身体もぶれないんだ。

「ジョニーデップと同じタバコの葉と巻紙ですよ。」と言って材料をくれたり、大変なことが起こっても「ふ。」と静かに笑って仕事を続けたり。

おそらくジョニーデップのファンというわけでもなくそのスタイルの一部が好きなのだろうってことが言葉の端々で分かる。

なので別段ジョニーデップを称賛する必要も否定する必要もない。彼女の言葉と表情に釘付け。

そんな彼女とその連れの人の話を誰かにしたくて、ふとした機会に話したところ「体育会系の女子は・・etc」という言葉が返って来た。

なるほど、体育会系ね。

一旦頷いたものの、何だか凄い違和感。

後から気が付いたのだけど、そういうものに分類されないのだわ。彼女は。

誰にも似ていない。誰の真似もしないし独特なんだわ。

正確に言うと誰一人何かに類型することはないのだろうけど。

ちょっと東京マラソンは無理だけど、昼休みの終わりに「ここの影にボールを置いておきますね。」と笑った彼女とたまにキャッチボール出来るくらいの私でありたい。
*****

看ている方々は良くなったり悪くなったり。ひきこもごも。まったくハラハラして疲れるな。

でも器用で疲れなくなってしまっても、良い仕事は出来ないのだろう。

彼女たちと相反して私は喜怒哀楽が激しい日々を送っている。

まあ、仕方ない。私だから。
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2017年03月18日

キャッチボール

メールカウンセリング、また進みました。亀の歩みのようでごめんなさい。

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いつぞや。。。と言っても一月ほども昔ではないけれど酷く暖かい日があった。

それからはずっと寒い日が続いていて、屋上で帰り際にビールを飲んで帰る作戦や、昼休みにキャッチボールをする作戦は停滞していた。「さ、寒いからもっと日が長くなってからにしようね。」

そして今日も決して暖かくはない。

屋内ではわさわさと喧噪が続いていて誰かが転んだり誰かを受診に連れて行くナースがあったりと私のピッチも鳴りっぱなし。

そんな日の昼休みにブルブルと震えながらタバコを吸っているといつもよくこちらのニーズに応えてくれる青年が居て「おう、お久しぶり。いつも色々頼んでいてごめんなさい。でも、ありがとう。」と言うと「ああ、今日は人数多いけど質が大変な日なんですよ。」とこの場所ならではの愚痴が返って来るのさえ楽しい。

喫煙所に来る人々というのは、どこか皆さんアウトローなのだけど、仕事に対してド真面目な人ばかり。

ドアを開けてすぐの風を避けられる場所で二人吸っていたのだが、階段の上の方から私の名前を呼ぶ声がする。

入浴チームのお二人が風が強い上方でしゃがみ込んでタバコを吸っていたらしいが、下方にいる私の笑い声を聴いて気が付いてくれたみたい。

ああ、お疲れさまです!と上を見上げたら、ボーイッシュな方の彼女がこちらに何かを突き出して見せた。

それはソフトなボール球だった。

「尾崎さん!尾崎さん、ほら!」

あ!と思って階段を駆け上がる。

本当はグローブつけて硬球でやる計画だったけど、まだ寒いし久しぶりだし、それは丁度気軽さのおもちゃのボール。

しかし、彼女の野球センスが凄く伺える素晴らしい動きを見た。いやあ、私が一番尊敬するキャッチャーの動きだわ。肩も腰も反射も。

キャッチボールをしながら「昨日さあ、貰ったタバコの材料で自分で巻いてみたんだけど二本巻くのに40分かかった。でも、友達が二本巻いてくれたから四本になった。でも、私、不器用だわあ。続かないと思う。」と呟くと、強めの球を返しつつ、「巻く器械を持って来てあげますよ。」と聞こえた。

時々配管に躓いてお互いこけそうになったり、何でもない話をしつつしばしキャッチボールをしてまた一服したり。

いつの間にかさっきの青年も上がって来ていたのでおもむろに投げつけたり。

そんな気分転換の後にはまた鬱蒼とした現場が待っていたのだけれど、今日は良い日。
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2017年03月01日

巻きタバコとたかたか鬼

まあ、些細な話なのだけど。

とかくデリケートになりがちな最中、昼休みの屋上がポカポカ天気だったことがあった。

つい最近解放されたばかりなのがこの屋上なのだけど、なかなか見晴らしが良い。

私が休みの間に開放されたその屋上へ初めて登った際、入浴係の女性ペアと三人で一服していたのだが。

他愛のない話をしているうちに、ついつい辺りに目が行って、私たちが立っているところよりも2メートル弱くらいの高さの台がいくつもあるのに気が付いた。

その高台は見渡す限りの屋上に幾つか見えるのだけど、ボイラーの配管などが周りにあって、もちろん人が登るようなところではない。

でも、何だかうずうずして来てしまって会話の途中でとうとう登って高台に立った。

いつもクールなお二方だけど、特にクールな方の女性が「止めて下さいよ!魔女みたいだから。飛んでっちゃう気?」と声を荒げた。めずらしいこともあるなと思った。←いやいや、よっぽどな行動だったんだろうよ、おまえが。

多分その日の白衣が上下ロイヤルブルーだったから魔女みたいに見えたのかな。

が、もう一人の女性。ボーイッシュな方の彼女はそれまで屋上の地べた、つまりはアスファルトの上に仰向けに寝転がっていた。

それだけでも大胆なのだけど、もうお一方が「降りて!」と言っている最中にむくっと体を起こしては見上げ、にやっ!と笑ってわずか2メートル平方もないであろう同じ台の上に身軽によじ登って来た。

そして一緒に大の字に寝転がった。空が別物みたいに綺麗だった。

狭い屋上だが「思い切りは出来ないだろうけど、今度キャッチボールしたいですね。」と寝転がったままの彼女が言う。

そうですね。ボイラーとかわけわかんない障害物がいっぱいで思い切りは出来ないでしょうけど、どうせならグローブつけてやりたいですね。

「そうですね。やっぱりグローブと硬球でパシッとね。」

どこにしまったかなー?グローブ。今度探してみます。

「あ、大丈夫。私、二つ持っているし。」

そんな会話の最中下を見下ろすと、いつぞやジンと来るようなことを言ってたばこを捨てて立ち去った彼女の方が魔女魔女言うのは止めてこちらを見あげている。

〇〇さんもおいでよ!と言うと、頭をふる。高いところが怖いのか?いや、そうだったら屋上自体に来ないよな。

釘付けになって下の彼女を観ていると横で一緒に転がっている方の彼女が「〇〇選手のサインボールをこのためにおろしちゃおうかな。」とか言っている。

その時、下にいる彼女が一言、こう言った。「それより、たかたか鬼やろうよ!」

絶句した。

物凄くあどけない顔だった。そして爆笑した。

ギャップあり過ぎ。

でも、その後、何日も何日も入浴場に処置をしに降りると極めてクールなテンションで力強く働いている大人の二人しか見れない。

*****

さらに、来る日も来る日も心がくじけてしまいそうな日々が続いて、今日の屋上も寒波の最中。暖かいのはあの一日だけだったのか。

見ると、このお二方も丁度休憩に来ていて「それ使って下さい。」と言うのでふと見ると、小さな小さなお尻だけ乗っかる折り畳み椅子がおいてあった。持って来たんかいっ。

ちなみに屋上に来る人全員が「これ持って来たのは尾崎さんじゃないか。」と言っていたそうだ。違うし。

そして私に椅子を譲っておきながら、自分はヤンキーのようにしゃがみ込んでいる彼女が吸っているタバコにふと目が行く。

あれ?そのタバコ、何の銘柄?なんか、かっこいいっすね。

人差し指と親指だけでつまんで吸いつつ、もう片方の手はすっぴんの自分の頬や顎を撫でている。外見は目がクリクリした美人なの、にショートヘアでそんな仕草をしていると西部劇のガンマンみたい。なんだかボーイッシュを通り越して男っぽいなんだよな。

「これ?手巻きたばこですよ。ジョニーデップが使ってるのと同じ紙。喉に良いらしいですよ。」

そう言っている口調は淡々としているのだけど、どこかふざけた感じに笑ってしまう。

ジョニーデップと同じ?喉に良い?

「うん、喉に良いけど体に悪いというわけのわかんない状態ね。」

かっこいいやら面白いやらで大爆笑した。まじで稀有。そして何だか癒されるなあ。

さらに言うと、その日の後半のこと。入浴場に処置に降りた際、よりクールな方の彼女がせっせっと作業しつつ「ああ、今日、母の命日だった。」と私に言う。

・・・・・・・・・・。なんで唐突に私に言う。なんで今思い出したの?お母さまは早世なさったのですか。

普段、何一つプライベートなこと話さないし、今一つ仲良くなってんだか何だか分からないのに。

色んな疑問が浮かぶものの、実際に口に出た感想は・・・「お母さまは・・・こんなに立派な娘さんを育てられたのですね。」だった。それに尽きる。

「ははは!」と低い声の本気の笑いが出て「そう。こんなに逞しくね。」と言ってとっとと仕事に没頭なさっていた。

なんか、楽しそうだなあ。二人とも何にも流されていないなあ。

職種が違うというだけではないな、これ。

おそらくは5つ6つは年下の方々。

無邪気だけれどクールでぶれないその佇まいは真似できないし中身もコピれないものの、とても貴重な人々を目の当たりにしているような気がする今日この頃。
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2017年02月26日

変容のスパン 早いし

週に一度往診医が来てくれる日はおおごとだ。

人口の多い利用者様方を4グループほどに分けて、1日に1グループ、何十人分かの処方が決まり。しかも前回とはご状態が変わっているので、こちらが何の薬を増やすべきか?減らすべきか?と決めてドクターに変更をお願いして処方箋を切って貰う。

それに加えて、この先生の他の先生にかかっている方々もいらっしゃるので、それはそのどこかしら係りつけの病院の処方箋と合わせてミックスになっている人もいるし。

その後方々の薬局や診療所へ出来上がった処方箋をファックスすると電話が滅茶苦茶なり出して先方からの質疑応答に答えなければならない。

その他にも諸々あるが、この週に一度の日は忙しいことこの上ない。

しかも、今年に入ってから、この日のメインナースが私のみ。何故なんだ、何故交代制にしないのだ。が・・・4グループまで一周した時期の頃、逆に感謝するようにもなった。

だって、携わるから誰が何の薬を飲んでいるのか?ということも詳しく分かるようになったし、大勢いて誰が誰だか分らなかった人々のこともある程度把握できるようになったから。

********

それじゃあ、一昨日やら昨日のように泣きましたか?というとそうでもない。

他人の心の中にあるデリケートさやガラス玉のような目をどうすることも出来ないが、私のあの日のガラス玉は水晶、つまりは水の結晶になった。

そして、気になったガラス玉の子は、何と、若干スーパーボールのように変わっていた。

へえ、大人だねえ。感心した。

若い人のスーパーボールにはかなわないが、少なくとも私は彼らや彼女らの色んな光を貰って、反射しては返す一つの水晶だ。
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2017年02月05日

素直

先日入浴の係の女性と今までで一番目を合わせて話して、その次に会った日のこと。

昼休みの喫煙所で「尾崎さんってさ。」と話しかけて来る。少し笑っている。ああ、こんなに顔がぱっと明るくなるんだな、この人と思うのはいつもクールすぎるほどだから。

それで年齢や家庭感情のことを聴かれて娘の写真や動画を見せたところ。

「いやあ、尾崎さんには良いお母さんやっていて欲しくなかった。飲んだくれていて欲しかったな。」と言われる。

いやいや、全然良い母さんじゃないですよ。それに基本飲んだくれですよ。最近はあまり飲めないけど。

なんて答えた午後、ナースの部屋に「すみません。アルコール綿作らせて下さい。」とどばーんと入って来た。

皆「下さい。」というだけでこちらが作っていたのに入浴の人は自分で作ってくれるんだ。助かるな。手が離せないことが多いから。

その時私は「どうぞー。」と言いながら夕方の薬をセットしていたのだが、ふと昼休むのことを思い出す。

ちょっと、ちょっと。後からよく考えてみれば、あれ、どういうこと?良いお母さんで居て欲しくなかったとか飲んだくれていて欲しかったとか。。。どんなイメージなの、それ。

するとケラケラ笑いつつ「いやいやいや、それはね、」と何だかよく分からないけれどうまくフォローしている言い訳が返って来た。

またもやさっさと去ってドアを閉められてしまったので、そのドアを開けて「大人の対応されて寂しいぞ!!」と背中に叫んでしまった。またケラケラという笑い声が返って来た。

「どんな人生歩いて来たの?」

・・・・・・・・・。好きなことばかりしてきました。

また高笑いが聞えてエレベーターのドアが閉まった。

*******

元気印の青年・・・というか私にとっては我が子ほどの少年なのだけど。

フロアに上がって来ると疲れ切ったように廊下にもたれかかっていた。

私らナースの場合は一階から三階のことまで全員看るので大変なわけで。

でも、何となく何か利用者様関連で傷だか状況だかを見せたくてか、あるいは報告したくて待っているように見えたのだが。

それより何より疲れているように見えたのが気になって「どしたの?なんか、疲れてるけど。」と口をついて出てしまったのは、本当にいつも元気印の子なので心配になってしまったのだ。

「これ。」と短く答えて指示されたものを観察すると、なるほど分かった。これを見せるためにじっとこっちを見てたのねと納得した。他のナースも近くに居たのに。

しかし、何だか他にも理由があるような。声に力がない。

こちらも連勤になると最終日あたりでへっとへとになるので、彼らもそうなのだろう。

ただそれ以外にも理由があるような。

それが気になる理由ってのがこちらにもあるが。

空元気では意味がないのだけど、怒ったり荒れたり少しベソかいたりするような顔を短い間に何度か見て思う。

君がそのままでありますよう。

*****

道行く人とすれ違う。

「疲れてんね。」と言って吹き出し合う。

疲れない方法はそりゃあるよ。何も真剣に考えなければ良いんだ。

けれども、そんな人生はつまらないし深まりもしない。
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